映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。惜しかったですねぇ、錦織選手。でも頑張りました！
朝からテレビのスコアが気になってしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

さて、今日はマギノビオンシリーズ第二弾、イギリスが舞台のファンタジー作品を紹介します。


スィールの娘
The Maginogion Tetralogy The Children of Llyr
エヴァンジェリン・ウォルトン
田村美佐子訳

第一作では遠景として登場した“強き者の島”を統べるブラン。第二作では彼とそのきょうだい達が、妹ブランウェンの結婚で縁を結んだアイルランド王との戦いがメインとなる。
　
　第一作においても、死者の王と身を取り変えて闘うなど主人公の超人ぶりが目立った。本編のブラン王は、軍隊が船で渡ったアイリッシュ海を「歩いて渡った」の巨体で、首だけの姿となっても弟達に未来への提言を行い、死者を投じればナウシカの巨神兵の如く恐ろしき者として転生する大釜を持っている。第一作を踏襲した“神ではないが不思議な能力の持ち主”が活躍するストーリーである。

　第一作では主人公が誘惑にうちかつが、ブランは義弟の囁きに心を動かされ、妹の息子でなく自分の息子に王位を継がせたいという欲に負けてしまう。それまでウェールズはよしながふみさんの漫画『大奥』を地で行くが如く女系継承が基本であり、理由は以下のように語られている。


「女たちは富を生み出した。家を形づくり、畑を耕してみのり多き場所とした。女たちには子どもらを育てるための屋根が必要であり、また狩りや釣りで何も手に入らなかった日にも食べものに事欠かぬよう備えねばならなかったからだ。当てもなく狩りをしてまわる男たちとは異なり、女たちは危ない橋を渡るわけにはいかなかった。そういうわけで、女の産んだ子のうちのひとりが母親の家督を継ぐならわしとなった。」


ところが征服欲に駆られた新しき民に代表される部族が台頭するとともに


「生命の源として畏敬の対象であった」


女たちは蔑みの対象となり、男系継承となったことにより、


「不当な仕打ちが続けられていけばいくほど、つぎつぎと生みだされる禍が戦を呼び、新たな暴虐が繰り返され、やがて男たちも平和な世があったことすら忘れてしまうだろう」


と戦乱の世が長く続くことが預言される。日本でも古代においては女性がシャーマン的な役割を果たして王となったことがあり、世界各地において似たような推移が起こっていたと考えるとなかなか興味深い。

第一作の嫁取りに見られた既知は欲を満たすための策略に、相思相愛で結ばれたカップルは、移ろいやすい愛情と誤解に身も心も傷ついていく悲劇のカップルにとって代わられる。生命＝女、破壊＝男とくっきりと分けられ、第一作ではあれほど強かった女性達が男性達に打ちのめされる対照的な作品である。その最たるものがブランウェンで、熱烈に恋い焦がれた夫によって料理女に身を落とされ、義兄に実子と夫を殺されたりと絶頂と奈落を味わう。いやはや、ここまで一片の救いももたらされないヒロインも珍しい。


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