映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは、また今年も日航機墜落事故のその日が来ましたね。あれから30年。親の年を越えてしまった子供もいることでしょう。


こちらの小説で取り扱った天安門事件からも随分時間が経ってしまいました。


独りでいるより優しくて
Kinder Than Solitude
イ―ユン・リー

1989年、体制に批判的だった1人の女子大生シャオアイが毒を飲んだ。こん睡状態に陥った彼女を家で待つのは、彼女と部屋をシェアする高校生の如玉、彼女の同級生泊陽と黙然。しかしその後シャオアイが目を覚ます事はなく…。

　先の革命を戦った父に対して「あなたたちの革命と私達のとは全く違う。あなたたちのは、考えもせずにただ指導者達についていっただけ。」と言い放つシャオアイは、1989年6月に天安門広場でデモを行った怒れる若者たちの象徴だ。その彼女が「輝ける未来を断ち切られ、長く眠り続ける」状態は、あの時から足踏みしたままの中国の民主化運動を暗示しているようだ。

　しかしシャオアイは決して聖なる殉教者ではなく、本作も中国社会を告発する書ではない。大学も辞め就職先も決まらない彼女は、一番身近な獲物をいたぶるように高校生達を挑発する。どんなに挑発しても感情を表さずにいた如玉に苛立ったシャオアイの取ったある行動が、先の悲劇を生む。つまり彼女は、社会や政府や個人を超えた力によって沈黙を強いられたわけではないのだ。

　では、この事件に3人はどのように関係しているのか。作者は事件の真相をぎりぎりまで引っ張りつつ、残された3人が1989年以後をどう生きたかを描く。3人のうち2人は祖国を離れているのにも関わらず、彼等は沈黙を守り、代償として孤独を抱える。自分を守ろうとすれば、自分に最も優しい生き方を選ぶのは至極当然かもしれない。確かに、孤独でいれば都合の悪い事は何も話さず、聞かず、考えずに済む。だがその代わり、誰にも本当の事を言えず、誰にも理解してもらえない。それは本当に、自分に優しい行為と言えるのか。

　3人が1989年に飲んだ毒を消し「孤独より優しい」状態を見つけてゆく過程は、勿論スムーズではない。理解しようと言葉をかける人達を鋭い言葉で拒絶し、自分より遥かに年下の女性の率直な物言いに戸惑うなど、不器用なことはなはだしい。それでも、最後には辿りつくのだ。孤独より優しい場所に。事件でなく人間に焦点をあてたストーリー展開は、「何かが起こっても、何も起こらない」作品を好んで描いたチェーホフによく似ている。

　「さすらう者たち」「黄金の少年、エメラルドの少女」と、一貫して孤独をテーマに据えて作品を書いてきたイ―ユン・リーの最新作。

　



【楽天ブックスならいつでも送料無料】独りでいるより優しくて [ イーユン・リー ]楽天ブックス