映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。お盆休みが終わったとはいうものの、まだ会社では休んでいる人がいますし、電車も比較的座れます。でも局地的に竜巻も起こったりして大気が不安定ですね。どうなったんでしょう日本。

さて、今回紹介するのは松本清張が書いた歴史小説です。


草の径
松本 清張

古書店廻りをしていた私は『西園寺公爵警備沿革史』を
手に入れる。それは、明治の元老、西園寺公爵の別邸静岡県興津坐漁荘
の警備記録だった。立命館大学学長の中川氏から紹介された運転手
高木善七の息子、善一と友人だった私は、彼から善七が
「中川さんのやり方はひどい」と言っていたと聞かされる。
坐漁荘の警備主任だった梅川と時を同じくして、
善七は解雇されていた。理由を探っていく私が突き当たったのは…。

「せまじきものは宮仕え」と言ったのは、歌舞伎『菅原伝授手習鑑』の
武部源蔵。かつて仕えていた菅原道真の子供の首を打て！と言われ、
子供への情と主君の命の板挟みに苦しんだ彼は、やりきれない胸中を
この一言にこめる。
梅川氏の日記にも、同じ言葉を見つけた。
「長い間にはすまじきものは宮仕へと思ったこともあります」
彼にも、主君の命と情に引き裂かれる、苦しい思いをするような出来事が
あったのだろうか？2.26事件の折りには豊橋の陸軍教導学校で青年将校が
西園寺襲撃計画を立てていた。引退したとはいえ、隠然とした勢力を
持つ老公（＝西園寺公爵）のまわりは、血なまぐさく、緊張を孕んでいたのか。
その中であった何かが、解雇に繋がったのか？すわ国家的陰謀か？
想像は膨らみ、俄然興味が湧いて来る。
ところが、複数の記録から浮かび上がって来たのは、老公の
晩年の愛妾、お花さんを巡るなんとも下世話な話。
座敷の横に洋間を増築した和洋折衷のモダーンな坐漁荘。
その 中で起きたのが、まことに日本的な出来事とは、何とも皮肉な案配だこと。
苦笑しつつも、事件を期待した分だけ、へなへなと力が抜けてゆく。そして、
呆れながら、こう呟く。
やれやれ、「せまじきものは宮仕え」の言葉も随分と軽くなったものだ。
と、いうより、梅川氏、貴方はこの言葉を言える立場か？老公も
老公だ。肩書きこそ『明治の元勲』と勇ましいけれど、女性スキャンダル
の一つもうまく処理できないとは情けない。そもそも、スキャンダルが
起こった事自体、老公の影響力が、坐漁荘一つに対しても、働かなかった
という事実の現れでは？そこまで思い至った時、気づいた。
軽くなったのは、あの言葉だけではなかったと。そして、警官と
運転手解雇の向こうに見える、本篇の真の主人公の姿にも。
ラストに引用されている、或る警官の言葉が、吹けば飛びそうな
老公の背中に、最後の鞭を振り下ろす。
身分や派手な経歴があろうと、所詮人は考える葦。フラットに
人間を眺める松本氏ならではの、明治の元勲像を描いた「老公」
他「モーツァルトの伯楽」「死者の網膜犯人像」「ネッカー川の影」
「『隠り人』日記抄」「呪術の渦巻文様」「夜がこわい」収録。


メール便送料無料！【中古】 草の径 / 松本 清張 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗　楽天市場店