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みなさん、こんばんは。現在特捜部Ｑシリーズの映画が東京で公開中のユッシ・エーズラ・オールスンのデビュー作です。

アルファベット・ハウス
Alfabet Huset
ユッシ・エーズラ・オールスン

　第二次世界大戦中、ドイツ上空で撃墜されてSS将校になり済ました英国軍パイロットのブライアンとジェイムズは、列車に潜入。ところが搬送先は精神病患者に人体実験を施す通称「アルファベット・ハウス」だった。そこには軍の財宝を着服した悪徳将校達が病人を装って紛れこんでいた。命を狙われたブライアンは単独で脱走に成功する。28年後、成功した実業家となったブライアンはジェイムズの行方を追っていたが…。

　第二次大戦中の第一部と、28年後の戦後を舞台に据えた第二部に分かれた『特捜部Q』シリーズのデビュー作。

　第一部は
1．いつ二人の正体がばれるのか
2．いつ二人は脱走できるのか？
という、戦争＋監獄ものではよくあるサスペンス要素で引っ張る。その上二人は「正常なのに異常者」「イギリス人なのにドイツ人」と二重に自分を偽っているのでハラハラ感も二倍。加えて当時の治療法といえば悪名高い電気ショックや投薬で、閉鎖的な環境や日常的な暴力により「正常であっても異常な状態にされてしまう」ため、偽装が偽装でなくなる可能性をはらむ。また、二人のうちジェイムズのみがドイツ語を解するが、だからといって彼が有利になるわけではなく、かえって危険性が高まる設定になるなど、常に読者の予想を巧みに外した筋運びで読む者を飽きさせない。


　一部の難易度の高いミッションに比べると、既に起こったことを解き明かす第二部は間延びした印象だ。作者はミステリよりも、男二人の友情の行方を書きたかったようだ。
1.ジェイムズは生きているのか？死んでいるのか？
2.生きているならなぜ連絡をよこさないのか？
などの謎は存在するが、タイムリミットがあるわけでもない。例えばブライアンが不治の病で…などの設定にすれば、切迫感は増したかもしれない。また、せっかく複数視点三人称を採用しているので、ジェイムズが戦後抱えた葛藤をもう少し読みたかった。

　さすがに第一作とあって、『特捜部Q』に散りばめられたコメディ要素はない。そのため全体を通して息を抜ける所のない作品となった。



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