映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、おはようございます。
東京では六義園のしだれ桜がきれいですね。
今年はあまり土筆がとれませんでした。

さて、こちらは映画でも有名な『太陽がいっぱい』の原作です。

太陽がいっぱい
The Talented Mr.Ripley
パトリシア・ハイスミス
訳佐宗鈴夫

ハイスミスの原作が日本に登場するよりも、映画『太陽がいっぱい』の公開の方が早かった。そのためにたいていの人が知っている『太陽がいっぱい』は、いかにも日本人好みの勧善懲悪、因果応報を解く物語としての印象が強いだろう。しかし原作は全く異なる。

　結末どころか、恋愛感情の向かう先も異なる。映画ではトムとディッキーがディッキーの女友達マージを争っていたのに対して、原作ではディッキーを挟んでマージとトムが火花を散らす。ディッキーとマージがいちゃついているのを見たトムは、彼女のいかにも肉感的な肢体に嫉妬し、ディッキーの服を着てマージの首を絞める真似までする。そして間の悪い事にディッキーにそれを見られてしまい「僕はゲイじゃない」ときっぱり言われてしまう。この後トムをある行為に走らせたのは、恋愛相手に好意を踏みにじられた事への復讐のように見えた。トムとディッキーの関係に関しては、後から制作された『リプリー』の方がより原作に近い。

　金持ちはよっぽど他人を信じるように出来ているのか。「二人を知っているマージと、トムがディッキーとして出会った人達の面通しをさせたら一発なのに！」「指輪にしろ遺書にしろ、どうして何度も‘忘れてたけど実は受け取ってた’の言い訳をどうしてあっさり信じる？それも昨日今日知ったようなトムの言った事なのに」などとツッコミたい所は多々ある。だが、ハイスミスはもともとミステリを書いたつもりはないそうだ。


　『殺意の迷宮』しかり、『見知らぬ乗客』しかり、ハイスミスは、階級や経済状況が異なる二人の男性が旅先で出会い、葛藤する物語を書きたかったようだ。そして、そこでは女性達は概ね邪魔者でしかない。危うい二人の男性の均衡が崩れた時に事件が起き、或いは事件が起きた事で均衡が崩れるといったシチュエーションの作品をよく書いている。本作もその一つだ。

　『太陽がいっぱい』『リプリー』そして原作を読むと、三通りのトム・リプリーとディッキーの姿が浮かび上がり、焦点を当てたテーマもそれぞれ異なる。それだけクリエイターの想像力を喚起する作品であると言える。

　2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。　



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