映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、おはようございます。

藤原紀香さんと片岡愛之助さんの会見ですね。
そして3月も終わり。心なしか電車も空いています。

さて、今日はヒッチコックの映画でも有名なあの作品です。

見知らぬ乗客
A Stranger in Train
パトリシア・ハイスミス
青田勝


　名匠ヒッチコックの映画『見知らぬ乗客』で、印象に残るシーンの一つとして皆が挙げるのが、テニスコートでのショットだ。試合中、誰もがボールの行方を追って首を振るのに、ただ一人顔を動かさない男がいた。テニス選手は次第に焦燥感に囚われていく…。

　このテニス選手が主人公のガイで、視線を動かさなかった男が、ガイと偶然列車で知り合い交換殺人を持ちかける‘見知らぬ乗客’ブルーノ（本作ではブルーノー）だ。但し、こちらも『太陽がいっぱい』同様、原作と映画は様々な点で異なる。まず第一の違いとして、原作のブルーノ―には、映画のような落ち着きがない。テニスコートのシーンも、もしブルーノーが原作通りの設定ならば、始終そわそわして、かえって試合に熱中している観客には気付かれなかったかもしれない。ガイの職業やその恋人アンの家庭環境も映画とは異なる。

　『太陽がいっぱい』と共通しているのは、ブルーノーがガイに抱く感情がほとんど恋愛感情といってもいい点だ。交換殺人が完全犯罪たり得るためには接触しない方が良いのに、ブルーノーはガイに何度も手紙を出し、それでも返事がこないと遂にガイの前に現れる。自分の希望を叶えて欲しいからじれているというよりは「自分の行為（＝殺人）を誉めて欲しい」という思いが強いようだ。そんなブルーノーの登場で追いつめられたガイは、列車の中ではどんな種類の人間だって人を殺すことができるんだ。これは純粋に環境の問題で、性分なんかには全然無関係だ！というブルーノ―に対して、自分はそんな種類の人間じゃないと否定していたにもかかわらず、遂に最後のがけっぷちを越えてしまう。ごく普通の男が、どんどん追いつめられていく姿を描く心理サスペンスであるが、ガイとブルーノ―が実は人間の二つの面（善と悪）を象徴しており、両者は容易く入れ替わる、というハイスミスの主張も透けて見える。私達は世の中という一つの列車に乗り合わせていて、いつ、どんなきっかけで、自分の中にいるもう一人の見知らぬ乗客＝自分との危険な出会いを果たすとも限らないのだ。

　2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。　

　
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