映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。
今日から新学期ですね。新入社員が増えて電車が混みそうです。

さて、こちらはフランスのミステリです。

新車のなかの女【新訳版】
セバスチアン・ジャプリゾ
La Dame Dans L’Auto
(創元推理文庫)

「盗んだバイクで走り出す　行き先もわからぬまま」と歌ったのは尾崎豊。さて、今回のケースは「盗んだ」と言うには語弊がある。パリの広告代理店に勤めるOLのダニー・ロンゴは、空港から自宅に戻してくれと半ば強引に頼まれて社長の新車サンダーバードを運転していたからだ。ところが彼女はまっすぐ自宅に戻す前に、ちょっと寄り道しようと考えた。ここからの社長の預かり知らぬ行動が「盗み」と言われればそうかもしれない。そして彼女の気紛れが、この先の筋書きをがらりと変えてしまう。

　物語はまだ海を見たことがないダニーが何者かに襲われて左手を怪我するシーンから始まる。一体彼女は何をしたのか。それとも単なる巻きこまれた被害者なのか。冒頭で投げかけられた謎は、そう簡単に明かされず、次々とダニ―の身には事件が降りかかり、身に覚えのない事を見知らぬ他人から言われる。絶対の自信があったはずのダニ―も、アイデンティティが揺らぐ恐怖に苛まれ、不安定になってママン・シュップという女性との回想シーンが挿入される。そんな彼女の様子や、一人どころか複数の人の証言が出てくると「ダニ―はもしかしたら二重人格ではないのか」と、読者の疑惑も深まる一方だ。ましてや冒頭に挙げたように、彼女の想いつきは自身しか知らないものであり、その行動を先読みして何かを仕掛ける事は、不可能に近い。よって読者は、何か起こる度に「実は彼女にはそうされてしかるべき理由があったのでは」という推測に大いに傾きつつも、一方で「単なる偶然かもしれない」という疑いも捨てきれず、両者の想いに揺れながら、物語を読み進めていくことになる。そうはいっても、さすが恋愛大国のおフランス。自分の土台が揺らいでいる危うい状況にも関わらず、アプローチされたらちゃっかり行きずりの男性とベッドインするヒロインは、結構大胆だ。

　章タイトルの「女」「眼鏡」「車」「銃」がそのまま事件のキーワードとなっており、第四章の某人物による大告白大会は「要らない」という意見も。


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