映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。ジョン・ディクスン・カ―の別名義のミステリです。
これ、戦争中に書かれてます。

貴婦人として死す
She Died a Lady
カーター・ディクスン

第二次大戦でパリが陥落し、海を隔ててドイツがいつ攻めて来るか、イギリス国民は戦々恐々としていた。そんな折、土地の医師ルーク・クロックスリーは数学教授アレック・ウェインライトの妻のリタから相談される。アメリカから来た元俳優で車のセールスマンをしているバリー・サリヴァンと不倫関係にある彼女は、戦争のニュースをラジオで聞く事に熱心な夫と離婚して再出発しようと考えていた。灯火管制で真っ暗な夜9時に、いつものようにラジオを聞き始めたアレックを置いてリタとバリーが外に出た。ルークは彼等を追うが、足跡が崖で途切れていた。翌日二人の死体が海で発見され、心中と思われるが、彼等は海に入る直前に撃たれていた。しかし足跡は彼等のだけだ。現場は屋外で開かれている。とはいえ、切り立った崖の先は海なので、密室状態と変わりない。犯人はどうやって足跡を残さずに消えたのか？

　作品の刊行が1943年で、まさに灯火管制下で書かれた作品だ。戦争の行方が定まらず、作品全体に重苦しい雰囲気が漂っている。その雰囲気を吹き飛ばして登場するのが、お馴染みメリヴェール郷。いや、この人変わりませんな。足を怪我して車椅子に乗っているから、安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵をやるかと思えば、そのまま飲み屋に突っ込んだり、止まらなくなって崖から落ちそうになったり（危ないって）、周囲をハラハラさせている。

　トリックはわかってみれば「なあんだ」と思うが、『テニスコートの殺人』ほどのトンデモ感はない。我々がトリックに対して抱く固定観念を巧く利用しており、不可解な手掛かりや伏線を回収していく手際はさすがカー。戦争を機に変わりゆく人心にノスタルジアを感じさせつつ、時代に適応していくメリヴェール郷で締めているのでしんみりした終わりにはならない。



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