映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。暑くなりましたね。冷房をかけたという人もいるようです。まだ5月なのにこんなに暑いのでは、これからどうなっていくでしょう。

さて、みなさん三国志はお好きですか？こちらのシリーズはティーン向けのコバルト文庫で最初に出版されたシリーズの外伝です。


天翔る旋風
朝香祥

1997年から集英社コバルト文庫で、三国志の呉の視点―それもよく知られている孫権ではなく、その前の代の孫策(孫権の兄)とその盟友にして名参謀の周瑜、孫権を主役に据えたシリーズが刊行された。｢旋風は江を駆ける｣｢江のざわめく刻｣｢二龍争戦〜星宿、江を巡る｣｢鳳凰飛翔〜華焔、江を薙ぐ｣｢旋風の生まれる処(上下)｣｢青嵐の夢｣など、タイトルに｢旋風（かぜ、と読ませる）｣と｢江｣が多くつけられているため、ファンの間では｢かぜ江｣シリーズと称されている。

　赤壁で曹操と闘い呉の帝となった孫策に比べ、嫡男であったとはいえ孫策の影は薄い。わずか19才で父の跡を継ぐが、父に似てかっとしやすい性格だったとの指摘もあり、史実でも26才で刺客に殺されるという、大将にしては情けない結末を迎えている。とどめは三国志演義で、道士・于吉に人望が集まるのを妬んで殺したため、呪い殺されてしまうといういかにも小人物っぽく見えるエピソードに仕立てられている。

　だが本シリーズでは、確かに若くて無謀であったが、直情的だが根は優しく家族や部下を思いやり、戦略にも優れていた設定になっている。彼の欠けた部分を支えるバディが周瑜で、定番として冷静沈着で思っていることをすぐ口にしない。後の彼の姿を彷彿とさせるようなキャラクターになっている。

　今回は｢群青｣｢華焔｣｢望西｣の三篇を収録。｢群青｣は孫策が、誰かの下で、誰かの命令によって生きるこれまでの人生から、自ら立つことを決意するまでが描かれる。袁術から独立宣言した孫策が後の妻となる女性と出会い、魯粛から天下三分の計ならぬ天下ニ分の計を提案されるも、非業の最期を遂げるまでが描かれる。この頃は曹操が漢室を牛耳っており、蜀など存在していないため、三分にならないのだ。本作に限らず、本シリーズで描かれる蜀の人々は、孔明・蜀ファンから見ると幾分存在感が薄くて驚くだろう。｢華焔｣は一兵卒の目から見た赤壁前夜が描かれるが孔明らは登場しない。｢望西｣は最期を迎える周瑜がこれまでを回顧するスタイルで、孫策亡き後の呉が描かれる。亡き友の夢を叶えんと征西に向かおうとする周瑜だが、病がこれを阻む切ないエピソードだ。切ないと言えば｢群青｣で周瑜を思いながら「一番を望む人にしか嫁がない」宣言をしていた孫策の妹・珠姫が、妻を亡くしたばかりの劉備に嫁ぎ有言実行を果たす。こちらも恋心が切ない。

　三国志はそれぞれの国のみならず、漢王室も含めれば膨大な登場人物がおり、全てを覚えきることは難しい。本シリーズを読むと、呉の国の人々やその人となりを知る良い機会になろう。



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