映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、おはようございます。オリンピックは柔道や体操が終わりレスリングと陸上が始まりますね。暑さに負けず見ていますか？

今日はイギリスのミステリ小説を紹介します。

悪魔のソナタ
The Strings of Murder
オスカル・デ・ミュリエル

　冒頭は医師が惨劇のあった家を訪れた1883年の出来事が描かれる。医師はおそれおののく家族を尻目に凶器を握り締めた少女に話しかける。ところで、このエピソード、さらっと読み流しませんように。

　そして5年後の1888年に、ようやく主役登場。『善良なメアリ・ブラウン事件』で株を上げたスコットランド・ヤードのイアン・フレイ警部は、理解ある上司にして警視総監であるサー・チャールズ・ウォレンの退職に伴い職場を去ることに。ヴァイオリニストを目指す末弟とやる気なさそうな三男以外の家族―由緒ある家柄にもかかわらず、息子が警察で働くことが気に入らない父、イアンを嫌いぬいている継母、嫌味な兄―はこのニュースを聞いて悉くイアンを非難し、更に婚約者からも三行半を突きつけられる。踏んだり蹴ったりのイアンにサー・チャールズから密命が下る。世間を騒がせている切り裂き魔に似た手口でヴァイオリニストが殺されたエディンバラに向かうよう命じられた彼は、｢九つ爪｣の異名を持つアドルファス・マグレイ警部とコンビを組むことになる。

　イアンは生粋のロンドンっ子で、家族と不仲とはいえ、基本的にはお坊ちゃん。難事件を解決するくらいだから頭はいいけれど、所謂世渡り上手ではない。スコットランド出身のアドルファスは、とある特徴から異名を持つ、見るからにチョイワル。規則軽視、上司軽視のふてぶてしい男だが、こちらもごますりとは無縁。そこは気が合いそうなのだが、彼はオカルティックな現象を信じていた。

　大人気TVシリーズ『X-ファイル』のモルダ―とスカリーコンビを、切り裂きジャック事件に騒然とする19世紀末のイギリスに持ってきた感じと考えて頂けると、主役二人をイメージしやすいだろう。アドルファスが、とある事情があって、署内にオカルティックな事件を専門に取り扱うセクションの長をやっているところまでモルダ―にそっくり。その‘事情’については、全てではないが本作で紹介され、反発一辺倒だったイアンがアドルファスに寄り添うきっかけとなる。やることなすこと正反対で、更にバックにはイングランドとスコットランドの対立まで背負った二人が、捜査をするうち次第に相手を認めていくようになる、定石を踏襲したストーリー。

　坊ちゃん可愛さでスコットランドまで追いかけてきた召使のジョーンや、母親に溺愛されているにも関わらず、音楽家などというヤクザな道を行く明るい弟エルジーなど脇役のキャラも立っている。もしかしてこれはパターンするのか？と思えるような「イアンがおしゃれな服を着る度に駄目にされる」エピソードも登場。ラテンアメリカ出身の作家が、気候も国民性も全く異なるイギリスを舞台に据えたミステリ。


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