映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。タイのクミポン国王が亡くなり、タイの国民が悲しみにくれていましたね。半世紀以上、第二次大戦後、若い時からずっと王だったのですから、国民の中には自分の父親のように感じていた人もいたかもしれませんね。

さて、こちらはスパイの攻防を描く作品です。でも、場所が意外なところなんです。

裏切りの晩餐
All the Old Knives
オレン・スタンバウアー
岩波書店

　川岸を渡ろうとしたサソリが蛙に自分をおぶって渡るように頼む。蛙は「きっとお前は俺を刺すに違いない」と言うがサソリは「絶対にそんな事はしない」と言う。蛙はサソリを渡してやるが、河の半ばごろやはりサソリは蛙を刺してしまう。理由を問うとサソリは言った。「本能なのだ」

　男女二人の攻防戦を描く本書を読んで思い出したのは、こんな逸話だ。CIA情報員ヘンリーは、かつて同じ職場でテロリストを相手に戦っていたシーリアを訪ね、夕食を共にする。6年前にウィーン空港で起きたテロで、飛行機内にいた内部通報者が情報漏えいによって殺された。ヘンリーは情報を漏らしたのが彼女ではないかと考えていた。事件後、シーリアは恋人である彼の元を去っていた。こう書くと攻守が一目瞭然であるが、実はそんな一筋縄の物語ではない。一般人になったとはいえシーリアも組織のやり方は心得ており、お互いに対する愛情とプロとしての本能、どちらを取るかという問題が最後に突きつけられる。そこで冒頭の逸話に繋がる。例え相手をどんなに愛していたとしても、スパイの本能からは二人とも逃れられない。

　主役以外ではレストランの従業員、過去に登場する同僚達など登場人物が少なめで、レストラン内部でほぼ主役二人によって進行する物語だ。過去の部分で多少場面転換はあるにせよ、舞台劇向きの作品といえよう。小説では全て説明しないとフェアではないので、ある描写によって、一方の目的にかなり早い段階で気がつくが、舞台化すれば、俳優達の演技のさじ加減で、その目的をかなりごまかす事が出来る。

　同時多発テロ以降の世界を舞台にしており、作品中に、実際に起こったロシアの劇場におけるテロが登場し、二人が相手の真意を見極めようとする時の重要なキーになるのもテロである。テロ自体がフィクションの世界のものではなくなった現在、物語にリアル感が増す。

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