映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。ずいぶん涼しくなりましたね。
そして月がきれいでした。日本シリーズは日本ハムと広島カープの決戦に。
さてどちらが勝つでしょうか？

今日はイギリスのミステリ小説を紹介します。でもこの探偵、大金持ちで前回一旦引退したはずなんですけど…やはり血が騒ぐようです。いえ、事件が探偵を呼ぶのかな？

マトリョーシカと消えた死体
One Good Turn
ケイト・アトキンソン
東京創元社

　前作『探偵ブロディの事件ファイル』で何とも不可思議な事件を担当してきた探偵ジャクソン・ブロディは、念願かなってパリに住めることになる。バツイチで娘とは離れて暮らしているが、前作で恋人ジュリアも出来た。彼女が出演するエディンバラ・フェスティバルについてきたジャクソンは、なぜか死体を見つけてしまう。

　冒頭で以下の5人が登場。前作でジャクソン・ブロディが主役であると知っていなければ、誰が主役かわからない。

1.「まさかエディンバラフェスティバルの真っ最中だとは思わなかった」と書いているところから、フェスティバルには関心もないポール・ブラッドリー。但しこの名前は本名ではないらしく「レイ」という名前も使っている。彼が車をぶつけてしまった相手にあわや殴られようとした時に、見知らぬ他人が助ける。

2.レイなのかポールなのかわからない男性を助けたマーティン・キャニング。ニ―ナ・ライリーシリーズというヒット作を持っているミステリ作家。お笑い芸人リチャード・モートにやや強引に家を使われているがつっぱねられない気弱な性格。

3.一連の顛末を傍観者として見ていたグロリア・ハンター。夫は富裕だが訳ありで逃げ回っている。

4．ジャクソン・ブロディ
3と同じく一連の目撃者。但しグロリアとは異なり、やったことの成り行きに茫然としているマーティンに「何かあったら連絡を」と連絡先を渡す。「とどのつまり、いまは一介の傍観者にすぎない」と書いているが、元警官にして元探偵の血が、傍観者のままにはしておかなそうだ。

5．友達のヘイミッシュと一緒に万引きをしている少年アーチ―がラストで目撃するのが1の事件。

この5人が、ある所ではすれ違い、ある所ではがっつり関わり合いをもちながら、この物語が並行して進み、同時に引退を決め込んでいたはずのブロディが探偵＆刑事魂に再び目覚めていく過程も描かれる。

原題「One Good Turn」は「One good turn deserves another.一つの善行はもう一つの善行に値する」から取られているが、物語の中では善行を為したものがなぜか悪い方へ悪い方へ転がっていき、傍観していた側が漁夫の利を得るような皮肉な構成になっている。しかし善を為す者がこれまでの経緯において全て善人であったか、といえば人間そんなはずはなく、つまりは「人間どこかに悪を持っている」という通奏低音がある。アトキンソンらしい人間観察、ひねったミステリと言えよう。

　ジャクソン・ブロディシリーズは2巻まで日本で刊行されており、全4巻で完結。BBCでドラマ化され、DVD化もされているそうだ。日本でもどこかで公開されないだろうか。


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