映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。
もう終わってしまいましたが、もともとｖクリスマスはキリストの生誕を祝う祭りですね。

ところで、キリストではない人物が誕生したらどうします？

アンチクリストの誕生 （ちくま文庫）
Die Geburt des Antichrist
レオ・ペルッツ

　ジェノバの靴直しが司祭の家政婦と結婚するが、妻は夜に夫が鼠に罵倒する姿を目撃する。夫の知人が現れて殺人を犯してガレー船に乗せられていた過去が明らかになると、妻も修道院を抜けだした過去を告白。クリスマスイブに赤ん坊が生まれるが、なぜか靴直しが十字架を切ると泣き出した。その夜靴直しは奇妙な夢を見て聖書に詳しい者が説き明かしてもらうが、その内容は血も凍るものだった。ただ一人赤ん坊の恐るべき正体を知る靴直しと、なぜか彼の殺意をすり抜けてしまう赤ん坊の攻防を描く『アンチクリストの誕生Die Geburt des Antichrist』。本当に信仰に忠実なのは靴直しなのに、なまじ夜中に変な姿を見られているものだから、妻さえも夫に不審を抱く。人間が死力を尽くして運命を変えようとするにも関わらず、結局定まった運命に落ちついてゆく様は、従来のペルッツ作品に共通のモチーフだ。

　靴直しが信仰に忠実であった事は人間は誰一人理解できなかった。それと同様の視点で描かれるのが、『走れメロス』みたいな約束を交わして家に帰る許可を得た暗号の専門家が、妻への疑心、電車のトラブルなど様々な困難を乗り越えながら任務を果たしてゆく『主よ、われを憐れみたまえHerr,erbarme Dich meiner!』や、決闘という予定が決まっているにも関わらず、その直前まで数学に打ちこんだ男が主人公の『夜のない日Der Tag ohne Abend』である。彼等の為した事や本心や名前は人間世界では悉く忘れられ、或いは誤解されてゆく。彼等の本心を知る者は天なる神のみ。これまでもそうだったが、ますます「天は全てをみそなわす」気味が強くなったペルッツ短編集。


他収録作
『一九一六年十月十二日火曜日Dienstag 12.Oktober 1916』
『月は笑うDer Mond lacht』
『霰弾亭Das Gasthaus zur Kartatsche』
『ボタンを押すだけでNur ein Druck auf den Knopf』
『ある兵士との会話Gesprach mit einem Soldaten』


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