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みなさん、こんばんは。オリンピックではわずかなミスが勝負を分けますね。

さて、こちらの小説もある選択が彼女の未来を分けていきます。

わたしの本当の子どもたち （創元SF文庫）
My Real Children
ジョー・ウォルトン

89才で老人ホームにいるパトリシアは、認知症で記憶が定かでない。彼女の頭の中では、いないはずの娘や息子が現れ、二つの記憶の間を揺れ動く。

　このように冒頭から「信頼できない語り手」である事が明かされるので、読者は最初から信頼のおける事実を見いだせない。決めるのはあなたですよ、と最初からボールを投げられているわけだ。

　語られる人生はある時点までは同じ記憶を共有する。厳しい母と優しい父のもと大学に通っていたパトリシアは、恋人マークからプロポーズされる。そしてここから「受けたトリシア」「断ったパッティ」の人生が分岐する。

　人生に幾度も訪れる選択のうち、結婚は極めて重大だ。家庭を持つか持たないか、仕事との両立、果ては老後までが、この時の選択により影響を受ける。最初はプロポーズを受けたトリシアの方が、彼女よりも能力が遥かに劣る夫に支配されて悲惨な人生を送る。「ほうら、結婚は人生の墓場」などと早計に決めるなかれ。だからといって断ったパッティが全く不幸に出会わないはずはないのだ。更に彼女達を取り巻く世界も、それぞれ異なる道を辿る。わざわざ巻末に年代表がついているのは、著者のファージング三部作同様、彼女達の二つの人生のいずれもに、歴史改変(Altered History)が行われているからだ。そうかと思えば同じ時期に母親の状態が悪化するなど、一致する出来事も起こり、かなり複雑に構成されている。

　人生は、ずっと幸せでいることも、ずっと不幸から抜け出せないこともあり得ない。パトリシアが結局どちらが本当の人生なのか覚えていないのは、二つのうちのどちらが幸せ、或いは不幸せだったのかを、結局は決められなかったからではないだろうか。

　国や世界の動きを報道で見ている折は、遠い世界の出来事と考えがちだが、案外そうした出来事も、周り回って私達の人生の選択肢とどこかで繋がっているのかもしれない。



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