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August 4, 2019
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みなさん、こんばんは。梅雨明けしたらとたんに猛暑が続きますね。
今日は最も知られている大デュマの物語です。

褐色の文豪
佐藤賢一
文藝春秋

『三銃士』で名高いダルタニヤンを主人公に据えた『二人のガスコン』刊行から五年。遂にその生みの親、アレクサンドル=デュマが、『黒い悪魔』に続く、デュマ家三部作の主役として、佐藤作品に登場。氏のデュマへの思い入れを知る読者は、「いつ出るのか」とさぞや首を長くして待っていた事だろう。

ナポレオン指揮下で戦った彼の父・トマ=アレクサンドルは黒い肌を持つ巨漢だった。彼は人々の憧れ(巨躯)と、人種差別の格好の標的(肌の色)という、両極端のものを併せ持っていたが、前者の恩恵よりも、後者故の差別を受ける事が多かった。そしてその性格も、肌の色(=黒)と同じく、他と相容れる事を肯んじなかった。だが息子の代になると、肌の色も黒から褐色へと薄まっており、性格はどうかと見てみると、これもまた、父よりはるかに打ち解けやすい男になっている。ナポレオンの失脚から七月革命、二月革命。大揺れに揺れた国フランスで、こればかりは父譲りの「女性に対するセックス・アピール」を存分に振りまき、根拠のない自信を原動力にして、パリ文壇の寵児となっていくデュマ。前半はそんな彼のサクセスストーリーの側面を持つ。だが、やがて彼の最大の支援者だった市民が、劇場に足を運ばなくなる。それも原因となったのは、彼が共鳴していた「革命」がもたらした混乱によるものだというから、何とも皮肉な巡り合わせである。皮肉と言えば、デュマが父のように政治的・軍事的成功を夢見て積極的に行動を起こしたにも関わらず、世間的には「文豪」としか評価されない件もしかり。他人から見ればどんなに羨ましい立場にある人でも、必ずしも理想を実現できるとは限らない。このジレンマに悩む文豪を見せて、氏は彼への共感を、ごく自然に読者に抱かせる。

佐藤作品の場合、主人公と常に対峙する存在を登場させ、両者の対比や対立が、ドラマの軸となってゆく場合が多い。今回の場合ライヴァルとして登場するのはヴィクトル・ユゴー。内心嫉妬しつつもその才能を賞賛するユゴーと、その心中を知らず、無邪気に尊敬の念を表明しているデュマの関係は、映画『アマデウス』で天才モーツァルトとサリエリのそれを彷彿とさせる。但しデュマの場合は、相手に追い落とされるのではなく、自滅してゆくのだが。

尚、ユゴー、デュマ、そして本作にも少し登場するバルザックと、同時代の文豪を比較した鹿島茂著『パリの王様たち―ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ』が既に刊行されているので、併せて読むのも一興である。「我が道を行く一癖あるヒーロー」が生き生きと活躍し、見てきたような『虚』と『実』が絶妙に絡み合った佳作だった。『黒』の次は『褐色』、さて、三代目の佐藤版小デュマは、どんな色を纏うのだろうか。


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最終更新日  August 4, 2019 12:00:20 AM
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