映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。芦田愛菜ちゃんが大河に出ますね。
今日からは韓国文学を紹介します。

優しい暴力の時代
チョン・イヒョン
河出書房新社

「優しい」「暴力」とは、本来矛盾した言葉だ。暴力は優しくない。しかし確かに優しい暴力は存在する。

「アンナ」
ダンススクールで出会ったアンナとキョンは、数年後子供の母親と補助教師として再会する。そこには明らかな経済格差がある。キョンは美容クリニックの夫がいる裕福な主婦、アンナは未だ独身で、補助教師は正規職員ではない。何かあれば責められすぐに辞めさせられる。そして韓国の教育ママ熱は日本のそれより凄まじい。ささやかな善意や好意はあっという間に吹き飛ばされる。

「ミス・チョと亀と僕」
母親を亡くした父親がいっとき付き合っていたチョ女史が亡くなったという報せが届く。チョには妹がいたが、彼女が飼っていた亀はつきあっていた男の息子である“僕”に託される。大人の付き合いをして、大人の別れ方をしたように何となく思っていた僕だが、二人の別れには、父親のある行為が背後にあった。

　「アンナ」のキョンにせよ「ミス・チョと亀と僕」の主人公の父にせよ、何かを“した”のではなく“しなかった”事が結果的に相手への拳になる。それは、心から愛していた相手や、いっとき友人として付き合っていた相手からの拳なので、予想外である分だけ痛い。そして第三者の眼には見えないため、受けた者だけが苦しむ。

　セウォル号事件も何かを“しなかった”事で多くの遺族を悲しませている。日本版のボーナストラックとして収録された「三豊百貨店」で取り上げられる、百貨店崩落事件もそうだ。経営陣の判断ミス、違法改造などセウォル号事件と数々の共通点を持つ事件は、数秒でビルが崩落し多くの死者を出した。もし事前に欠陥に気づいて対処していたら―しかし実際には無視された。優しい暴力は“無視“を伴う。表面は優しい顔をして「あなた達の事なんか知らない、聞いたこともない」という顔をして、通り過ぎた後に体のどこかに傷を残す。正面切って襲ってくるよりもよほど恐ろしい。しかしそんな日常を過ごしているのは韓国に限らない。日本でも、何事もそこそこに対処するスマートさが重んじられ、追求する者は“うざい”と言われる。見えない所でどくどくと血を流す人達を、私達は見えていないふりをしているのか。それとも見つける眼を、もう失ってしまっているのか。

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