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カテゴリ:その他のジャンルの海外小説
みなさん、こんばんは。あっという間に11月になりましたね。観光地では紅葉がみごとでしょう。
1920年代のNYを舞台にした作品を紹介します。 賢者たちの街 Rules of civility エイモア・トールズ 早川書房 1966年、NYの地下鉄で隠し撮りした写真ばかりを展示したポートレート展にやってきた中年夫妻のうち、妻はある人物に目を止める。銀行家ティンカー・グレイだ。写真展でもう一つ彼を映した写真を妻は見つける。写真は1938年と1939年に撮影されたもので、一年の間に彼は随分と変わっていた。二枚の写真を見比べた夫ヴァルは「金持ちから無一文へ転落とは」と言うが「必ずしもそういうわけじゃない」と妻は言う。 妻であるケイト―本名はカティア―が本編の主人公だ。ロシア移民の娘でブルックリン育ち、アメリカで頼れる親類はいない。タイピストの仕事をしながら、中西部のそこそこ裕福な家の生まれであるイヴとルームシェアをしていた。1937年の大晦日、二人の前に青い目をしたハンサムな銀行家ティンカー・グレイが現れる。ティンカーを見るなり「あたしのものよ」と宣言するイヴ。しかしケイティもティンカーに惹かれていた。 おとなしくて真面目なケイティ。自信家かつ野心家のイヴ。恋愛映画の定番ならば、まず目を引く派手な女性が意中の男性と付き合うが、やがて主人公の真の価値―素直、誠実、賢さ、優しさ―に目覚めて二人は結ばれる。本作も一応定番をなぞる。しかし冒頭のようにケイティの今の伴侶はティンカーではない。なぜ二人は一緒にいられなかったのか。理由はケイティの台詞「必ずしもそういうわけじゃない」にある。写真などという、人間のある一部を切り取っただけではケイティとティンカーの物語はわからない。 「ある晴れた朝、目をさまし、ティファニーで朝食を食べるようになっても、あたし自身というものは失いたくないのね。」と言ったのはホーリー・ゴライトリー。成功しても自分を持っていたいホーリーのような例は稀有だ。階級の下の方にいる人ほど、成功すれば変わろうとする。散々見せつけられてきたものを手に入れて、成功の味を噛みしめるのだ。変わらないでいられるのは、もともと銀の匙を咥えて生まれてきた連中くらいだ。実際、変わろうとする人々のエネルギーが、NYを支えてきた。ケイティ、イヴ、ティンカー、彼等も未来のある若者達の例に漏れず、成功をつかもうとする。そのためには何かを犠牲にしなければならない。そして何を犠牲にしていいかはそれぞれ異なる。 本書には、誰も悪者がいない。皆ウィークポイントを持っているし、欠けたる部分も持っている。相手を金で思うままに操っているだけで良しとしていたはずの名流夫人は、いざ彼が去ろうとすると、みっともない焦りをスマートな言葉に包みながら恋敵を牽制する。偶然の出来事で恋を得た女性は、恋敵を遠ざけたにも関わらず、絶好のチャンスをなぜだか不意にする。売れない絵を描き続けてきた男性は、他人にタバコをたかるほど困窮していながら、兄弟から与えられる金を燃やして去っていく。誰でもいっときは賢者になるが、その他大勢の期間は愚者にもなる。そして賢い選択が一片の後悔も生まないという事は決してない。 二つの大戦に挟まれた期間、ウォール街の暴落はあったものの、まだ本当の泥沼には浸かっていないアメリカNYで咲いた仇花の一つを、精緻な筆力で華やかに、かつ哀愁をこめて描く。 賢者たちの街 [ エイモア・トールズ ]楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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