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カテゴリ:日本の作家が書いた歴史小説
みなさん、こんばんは。日本初の金メダルが柔道で出ましたね。今日も火坂雅志さんの小説を紹介します。
骨董屋征次郎京暦 火坂雅志 実業之日本社 京の夢見坂にある骨董屋「遊壷堂」のあるじ征次郎は、元は加賀金沢藩前田家に仕えた侍の息子。父を襲った奇禍によりすっぱりと侍を捨て、幼い頃より親しんだ骨董を扱う商売を営む。ところが「夢見」「遊」という字が悪いのか、はたまた生来の性格故か、海底に沈む異国の茶碗を引き上げるため、莫大な借金を抱え込んだり、新選組隊士を斬ってお尋ね者になり、長崎に逃げる羽目になったりと、どうも三十半ばの割には落ち着きがない。ところが武士の世が終わり明治になった時は、彼はさしたる屈託もなく、さっさとザンギリ頭にしている。「世の中はどんどん変わるが、自分は変わらないものをあきなう」と割り切っているし、彼の周囲の人々の中にも、境遇が劇的に変わった人はいないからだ。先斗町の売れっ子芸妓で征次郎とは相惚れの小染、ハタ師の兼吉、骨董の師・柴山抱月、そして、煎餅屋のあるじで、実は闇の骨董オークションの元締めなど、二〇〇一年五月に刊行された「骨董屋征次郎手控」の登場人物は、本作でも元気な姿を見せてくれる。 但し、肝心の骨董が、以前と同じ扱いでは、なくなっていく。多数の武士が職場と俸給を失い、明治初年の政府の政策によって引き起こされた廃仏毀釈運動により、多くの仏教美術品や骨董品が売りに出されたのだ。完全な売り手市場だから値は叩かれ、これらを競って手に入れたのが新勢力の薩長や、外国人である。日本の精神を持ち西洋の学問を受け入れる「和魂洋才」が政府の旗印だったが、和の魂で作られた骨董品は、魂ほどには重きをおかれなかった。こよなく骨董を愛する男・征次郎が、この状況に黙っていられるはずもない。前作からの因縁の相手、猪熊玉堂が絡んでいるとあっちゃあ、尚更だ。こうして彼は、無謀な戦いに挑む。時代が変わっても、変わらぬ心意気を持つ男・征次郎の活躍を三年ぶりに堪能。小染とのなかなか進まぬ仲、三十六歌仙絵巻を巡る大がかりな陰謀の二つにきっちり最終話で決着がつく締めもいい。 さてこの作品、北森鴻作品と結構関連がある。 店を持たないハタ師兼吉は、北森鴻氏の「狐罠」「狐闇」「緋友禅・旗師冬狐堂」に登場するヒロイン、宇佐見陶子の大先輩であり、征次郎は同じく北森氏の「孔雀狂想曲」の主人公である雅覧堂店主・越名集治の先輩にあたる。「冬狐(とうこ)」「遊壷(ゆうこ)」と響きも似ている。更に同じく氏の「凶笑面」収録の「双死神(そうししん)」と前述の「狐闇」に登場してくる幻の税所コレクションは、薩摩藩出身の堺県令・税所篤が、県令の地位を利用して奈良県を堺に併合し、士族から安く手に入れた仏教美術品や骨董品で構成されている。明治時代の骨董事情がより解りやすいと思われるので、興味のある方は、是非二者の作品を読み比べてみる事をお薦めする。 【中古】 骨董屋征次郎京暦 講談社文庫/火坂雅志【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
July 26, 2021 12:00:20 AM
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