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カテゴリ:その他のジャンルの海外小説
みなさんこんばんは。イギリスの新首相が決まりましたね。外相トラス氏は、6日に正式に首相に就任します。
さて、今日はちょっと面白い邦題の作品を紹介します。 もうやってらんない Such A Fun Age カイリー・リード 早川書房 表紙絵は向かって左からケリー、エミラ(本編の主人公)、ブライアー、キャサリンを抱くアリックス、ピーター。右半分は微笑んでいるが、エミラは微妙。ここから邦題の台詞を言っても違和感なさそう。ケリーはスマホをじっと見ている。 エミラは25歳のアフリカ系アメリカ人。大学卒業後、定職に就かずにベビーシッターをしているが、そろそろきちんと健康保険に入れる職に就きたいと思っている。ある日、ベビーシッター先の白人の子どもブライアーを連れて高級スーパーを歩いていると、誘拐の疑いをかけられてしまう。パーティ会場から呼び出されたエミラの服装も影響して誘拐疑惑が深まり、雇い先のピーター・チェンバレンの電話でやっと放免される。その時画像を撮影していたケリーとつきあうことになったエミラ。雇い主の白人女性アリックス・チェンバレンは正式に抗議すべきだと焚きつけてくるが、エミラは今一つ気が進まない。 デパートでの事件以後、アリックスはエミラに「偶然買いすぎちゃったから」と食料品を渡したり「彼女の事を知ってもっと親しくなりたい」とアプローチする。一見雇用者の事を考えてくれる親切な雇用主に見えるが、その方法がいかん。この後も度々アリックス自身は良かれと思ってやっているのに、読者が違和感を覚えるように設定された彼女の言動がぽろぽろと出てくる。今回の場合、ロックをかけてないエミラも不用心だが、アリックスはエミラの携帯を盗み見て嗜好を探ろうとする。実はこの盗み見、やっているうちに「悪い事をしている」感覚が薄れていくのがミソだ。アリックスをはじめ彼女の友人たちが、エミラに良かれと思って取った行動は、実は「私はこんなに黒人に理解がある白人リベラルなの」と誇示せんがため、つまり相手のためでなく自分のための言動であることがはっきりしてくる。エミラも愚かではないので、言語化できなくてもアリックスの偽善には何となく感じているし、もう一人アリックスをよく知る人間は露骨に反感を抱く。 カジュアルレイシズムという言葉があるらしい。日本ではあまり知られていないが、無意識の人種差別、悪気のない人種差別のことだ。人種差別を悪気なくできるのか?というのがそもそもわからないが、無意識のうちにこれまでの経験ですりこまれた第一印象、先入観が既に差別に染まっているということだろう。それは表向きどんな綺麗な言葉でつくろっても出てきてしまう。チャンスと意欲があれば誰でも浮かび上がれる国の代表格として存在してきたアメリカ社会が抱える問題は、まだまだ個人の「やってらんない」でぶち壊す破壊力に頼るしかないのだろうか。 そんなにストーリーはうねうねしていないのにブッカー賞候補作。 もうやってらんない [ カイリー・リード ]楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
September 7, 2022 12:00:29 AM
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