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みなさんこんばんは。F1第18戦日本グランプリ（GP）は三重県の鈴鹿サーキットで開幕しました。新型コロナウイルスの影響で開催は3年ぶりとなります。今日はガガーリンをモチーフにした短編集を紹介します。

ロシアの星
L'étoile russe
アンヌ=マリー・ルヴォル
集英社

1961年、人類初の有人宇宙飛行としてボストーク1号に単身搭乗したユーリー・ガガーリンの「地球は青かった」は有名だ。アポロ11号で初めて月に降り立ったニール・アームストロングなど“初めて“を成し遂げた人は、まるで仰ぎ見る星＝スターのように見做され、どこに行っても人気の的となる。しかし、当の星は、幸せだったのか？

　主役たるガガーリンは、背表紙にいる。表紙挿絵に登場する人物が、それぞれの短編の主人公だ。全部で九人おり、後半になるに従い、実際に彼と出会った人が多くなる。それに伴い、ガガーリンは“国家の英雄”としての華々しい姿から遠ざかる。前半にガガーリンを仰ぎ見る人々達の挿話が配されているのは、勿論意図的である。


　最後から二つ目の短編「通訳」は、彼の通訳を担当した女性の一人称語りだ。彼女の物語の中にYGとして登場するガガーリンは、宇宙飛行を成し遂げた後、彼女と何度か会う。最初の出会いでは紅潮して彼女の質問に答える姿が描かれるが、その二年後に出会った時、彼は姿かたちが変わっていた。

　理由ならある。「初の宇宙飛行を成し遂げた人物を死なせてはならない」という国家命令で、ガガーリンはその後二度と飛べなかった。ガガーリンの宇宙飛行後、ソ連は変わらず宇宙開発計画を進めていたが、技術面でも資金面でも現在のように宇宙飛行士が何度も旅が出来る状態ではなかった。飛行すら封じられ、彼に求められたのは、過去の栄光を掲げて世界中を旅し、愛想笑いと壊れたテープレコーダーのような台詞を口にする、ソ連の広告塔だ。

　最後から一つ目の短編「遺された妻 」はガガーリンの妻の、こちらも一人称一人語りだ。史実で明らかだがガガーリンは念願の飛行に出た途端墜落死した。もちろん国葬である。しかし葬儀も彼の骨も、愛する家族の思いとはかけ離れた場所に置かれ、彼等の暮らしも英雄の家族のそれとは程遠い。

　星は離れて見ている分には輝いているが、近くに行って見れば、もう光は放たない。星と、星を仰ぎ見る人と、果たしてどちらが本当に幸せだったのか。


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