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みなさん、こんばんは。
ドラマ「心理探偵フィッツ」などの英国俳優ロビー・コルトレーンさんが亡くなりましたね。
今日から3日間藤沢周平作品を紹介します。

市塵/江戸おんな絵姿十二景 他 藤沢周平全集 第二十二巻
藤沢周平
文藝春秋

隔月連載のよしながふみの漫画『大奥』では、御側御用人・間部詮房が、当代将軍となった吉宗に華美な着物をすすめた所、あっさりクビを言い渡される。後に倹約政策をすすめる八代将軍らしいスタートだが、それでは先代の将軍達がことさら豪奢に暮らしたかというと、そうではない。まず次の政権は、元禄文化花開いた五代将軍・綱吉時代のツケを払わなければならなかった。更に六代家宣が病死し、その息子七代将軍家継も幼君だったため、将軍の抑えが完全には機能しなかった。だから大奥を震撼させる絵島・生島事件が起こる。そのような不安定な時期を、間部と共に大いに働いたのが、本編の主人公、新井白石である。

　堅物で、融通のきかない学者という先入観が強かったが、氏は冒頭から、そのイメージを突き崩す。まだ綱吉が将軍だった時代、悪法・生類憐れみの令を揶揄した狂歌詠みが捕われたのを目にした白石は、下男に男がどうなったか確かめさせる。この好奇心は、やがて出会う事になるオランダ人ヨハン・シドッチとの出会いの場面でも発揮される。彼は、決して本に書かれた事にしか興味がない、象牙の塔の住人ではなかった。世間の動きを見据えながら、実践的な学問を目指していたと言える。そして彼は、綱吉時代の遺産ともいえる荻原重秀と、通貨改革で激しく対立し、3度に渡る弾劾書の末に、ようやく彼を放逐する。しかし、諸田玲子氏『其の一日』を読むと、重秀の改鋳で、財政難を緩和した面も確かにある。都合のいい時だけ利用して、最後に罪を一手に彼に背負わせたような感もあり、この本の主張のように、彼を一方的に悪人としては、見られなかった。 為政者が変わると政策ががらっと変わっていくのは、昔も今も変わらない。一度目の変革の追い風に乗った白石も、二度目の変革では自分の成した政策が真っ向から否定されるという憂き目にあう。

　「よかれ悪しかれ新しい時代がはじまり、古い時代の登場人物は舞台から去るしかない」自分の華やかだった時代を求めて彷徨う歌麿（『喜多川歌麿女絵草紙』）と異なり、白石は或る種の諦観を持って、事実を受け止める。そして「これを書くまでは死ねん」と定めた書物に向かう。どんなに自分が頑張っても、どうにもならない大きな力で跳ね返される事は、人生のうちきっとある。その時、白石のような態度で運命に臨めるよう、もっと自分を磨こうと思った。

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