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カテゴリ:その他のジャンルの海外小説
みなさんこんばんは。アニソン歌手の水木一郎さんが亡くなりましたね。貧困家庭を救うためにイタリアで実際に行われていた事業を元にしたフィクションを紹介します。
「幸せの列車」に乗せられた少年 Il treno deil bambini ヴィオラ・アルドーネ 河出書房新社 表紙絵はモノクロだが、一人の少年とリンゴだけが色づいている。向かい合わせに座っている少年少女達は皆眠っている。長距離の列車なのだ。子供達だけで、なぜ長距離列車に乗ったのか? 北と南、東と西、一度分かれた国では、重ねた歴史の分だけ貧富の差が広がってしまった。イタリアは一度も分かれたことがない国だが、それでも北部と南部とで貧富の差が激しい。格差の一時的な解消を目指して、南部の貧困家庭の子供たちを、比較的裕福な北部の街で養育する試みが行われていた。タイトルにもなっている「幸せの列車」である。1946年から1952年まで実際に運行されていた。 主人公のアメリーゴはナポリの下町生まれの7歳の少年だ。3歳年上の兄ルイジがいたが病気で亡くなり、父親は幸運をつかむため家を出ていつ戻ってくるかもわからない。読み書きのできない母親との暮らしを支えるために古着を売って暮らしている。古着の元締めはどうやら母親とわりない仲になっており、アメリーゴはいまいましく思っていたが、生活を支えるためには仕方がないと割り切っていた。そんな時、女性活動家マッダレーナ・クリスクオロの音頭取りにより、南部の子供のいない裕福な家庭に引き取られる。 アメリーゴは初登場時、他人の靴を履いた状態で登場する。つまり自分の靴が買える経済状態ではない。 「僕は自分の靴なんて一度も買ってもらったことがない。他人の靴を履いてるから、いつだって足が痛くなる。他人の靴を履いてるせいだ。(中略)靴は、僕の前に履いてた子の足の形になっている。その子と一緒に別の道を歩き、別の遊びをするうちに、その子の癖がついてしまったんだ。」 靴は人生の象徴でもある。 第3部、養家から戻ってきたアメリーゴが 「僕の靴は足を痛めつける。(中略)靴はまだきれいなのに、僕の足のほうが大きくなって、靴に合わなくなったんだ。」 という感想を抱く。もちろん成長著しいから、本当に靴が合わなくなったという意味もあるが、もう昔の暮らしには戻れないという意味でもある。 「足の形というのはみんな違っていて、人それぞれなんだ。それに靴を合わせてやらないといけない。さもないと、いつまでも苦痛が続く」 などのように象徴的な台詞が複数回登場する。 どうしようもなければ、靴に自分の足を合わせて履くしかない。まるで童話のシンデレラだ。しかし童話のシンデレラの義姉も、無理に靴に合わせようと足をちょんぎっていた。アメリーゴはもちろんそこまでしないが、新しい靴を知ってしまった心は元には戻らない。他の暮らしを知らない家族との間に隙間が生じ、どんどん大きくなっていく。“家族だからわかってくれるはずだ”とお互いに想っているから性質が悪い。何を分かり、何を理解できなかったかは、やはり年を経ないとわからない。 希望という意味の名字を持つアメリーゴが、自分に合った靴=人生を得るまでの過程を描いている。全四部構成で、一部はアメリーゴが南部に向かうまで、二部は新しい家庭での生活、三部は実家に戻ったアメリーゴ、そして第四部は大人になったアメリーゴの一人称語りである。第一部と第四部だけ年号がタイトルについている。 「幸せの列車」に乗せられた少年 [ ヴィオラ・アルドーネ ]楽天ブックス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
January 5, 2023 06:04:04 AM
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