映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさんこんばんは。新型コロナの名称がコロナ2019になったそうです。今日から３日間イーディス・ウォートン作品を紹介します。

夏
Summer
イーディス・ウォートン
彩流社

​「何もかもうんざり！」
本作はこの台詞を二度繰り返したヒロインの、夏に始まり秋に終わる物語だ。ヒロインの名前はチャリティ。慈愛・慈善・博愛と素晴らしい意味を持つ名前だが、あいにく生母がつけたのではない。つけてくれた養母はこの世の人でなく、養父のロイヤルは、17歳の時チャリティに関係を迫り、当然ながら全力で拒否された。とんだ光源氏である。

　舞台はニューイングランドの小村ノースドーマー。ウォートンがよく舞台に選ぶNYは“大都会”をイメージする記号として、かつ登場人物のいた場所として、遠景として登場する。かつてロイヤルは法曹家として都会で活躍したが、妻の懇願により生まれ故郷の村に戻って来た。村では自分を生かす仕事の機会は皆無に等しいが、弁護士として一定の尊敬は受けている。そして身寄りのない少女を引き取ったことも尊敬の念を高めている。

　ウォートン作品には、自分が今いる“ある場所”に居心地の悪さを感じている人物が登場する。本作で言えば、ノースドーマーにうんざりしているが逃げ出せないチャリティと、居心地の悪さを感じているロイヤルである。ロイヤルは年齢もあり、都会にいられない理由もはっきりではないが明かされているため、ここで落ち着く覚悟を固めている。行動こそ抑制が取れていないが、チャリティとの結婚もそれを見据えてのことだ。しかし若いチャリティはそこまで諦めきれない。

　だから彼女は自活のために村の図書館で働き始める。金銭はわずかで、その仕事が後見人の援助なしには得られなかったとしても、仕事を持っていることでロイヤルから離れる夢を見る。その夢に形を与えたのが、NYからやってきた建築家ル―シャス・ハーニー青年だ。図書館での出会いは典型的なボーイ・ミーツ・ガールで、反発しつつも惹かれ合う過程は通俗的なラブストーリーだ。彼はチャリティが恥としていた出自の山についても憧れを抱き“小さな独立王国”などとぶち上げる。

　しかし結局彼が山に見ていたのは都合のよい幻想であり、チャリティに見ていたのも物珍しさ・好奇心から一歩出た一時の感情である。山の現実はチャリティが母の死にざまで感じたように、村に受け入れられず貧しい暮らしをする人々の集団であり、ル―シャスには決まった未来があった。

　ル―シャスとの恋愛、ロイヤルとの対立、そして思いがけず知る母の消息など、次々と起こる出来事でチャリティは揺さぶられるが、最後に決定的な出来事が起こり、大人にならざるを得なくなる。少女の一種の通過儀礼的な物語の中に、ウォートンお得意の都会VS田舎の対比を絡めている。


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