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みなさんこんばんは。『炎のランナー』で有名なヒュー・ハドソン監督が亡くなりましたね。今日はイレーヌ・ネミロフスキー作品を紹介します。

アスファール​
Le maître des ames
イレーヌ・ネミロフスキー
未知谷

ニースに住む移民の医師ダリオ・アスファール(タイトルロール)が、マルト・アレクサンドロヴナ‐ムーラヴィネ将軍夫人‐に借金を申し込む場面から物語は始まる。生まれたばかりの息子ダニエルと体の弱い妻クララと暮らしてゆく、最低限の金が必要なのだ。しかし質草にするものを持っていないダリオに、マルトは息子ミテンカの嫁エリナーの妊娠を何とかして欲しいと相談する。エリナーの身ごもっている子供は、ミテンカの子ではない。ところが身軽になったエリナーが家出しミテンカが自殺を図ったことで、激怒したマルトは借した金を即刻支払うようダリオに要求。ダリオは高級ホテルの給仕長アンジュ・マルティネッリを頼り、製造業の富豪フィリップ・ワルドを診ることになる。

　アスファールが貧乏なのは
「フランスの医師免許を持ってる、フランスの習慣も。フランス国籍だって取ったんです。ところが人は私をよそ者扱いする」
所以にある。マルト・アレクサンドロヴナも苗字からわかるようにロシア移民であり、生粋のフランス人社会に受け入れられない移民達は彼等同志で助け合うしかない。ダリオはワルドの妻となったエリナーの引きを得て、いかさま治療師と揶揄されながらも、フランス社会に食い込んでゆく。正攻法ではフランス社会に受け入れられない事を痛感し、ひとえに妻を楽にし、息子が自分と同じ苦労をしなくても済むために、必ず責められる方法で富を築いた。それなのに、誰よりも守ろうとした息子ダニエルから背かれ、遂には最愛の人を失う。そこで悔い改めれれば世間一般で言うところの良い話になるが、ネミロフスキーは敢えて彼をシャイロックにはしなかった。むしろ、よそ者＝移民に居場所を与えなかったフランス社会が、いかさま治療師に虜になる様をカリカチュアライズして描いている。


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