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みなさんこんばんは。カルロス・サウラ監督が亡くなりましたね。今日から9日間ドストエフスキー作品を紹介します。

賭博者
フョードル・ミハイロヴィチ ドストエフスキー
亀山 郁夫訳
光文社古典新訳文庫

　​ドイツの町ルーレッテンブルグ(ルーレットの街)。賭博に魅入られた人々が今日もカジノに集まる。アレクセイは将軍の子供達の家庭教師をしながらカジノに通い、義理の娘ポリーナに恋していた。将軍は謎めいたフランス人女性マドモアゼル・ブランシュに求婚するつもりだったが、財産は身ぐるみデ・グリュ―侯爵の抵当に入っている。将軍が当てにしているのは、将軍の叔母アントニーナ。ところがアントニーナが車椅子のまま列車に乗ってルーレッテンブルグにやってきた。彼女は周囲の心配をよそに、カジノで賭けに興じるのだが。

　1860年頃、ドストエフスキーはポリーナ・スースロワと恋仲にあったが、彼女はドストエフスキーの態度が不満だったのか、ドストエフスキーの不在時にスペイン人医学生と関係を結ぶ。それでもドストエフスキーは彼女を赦し、「兄と妹」という関係でイタリア旅行に出かけるが、彼女との冷めた関係への腹いせに行く先々でルーレットに明け暮れた。この時の体験が本作のもとになったと言われている。

　失恋をネタにするところは、さすが作家！と言いたいところだが、自分のモデルをこれでもかと虐め抜くところはドM全開である。ドストの投影アレクセイは
「ぼくはそれでも、自分のために勝負をはじめればかならず勝てるという絶対の自信があるんです」
と、負けがこんでいる者がいかにも言いそうな言い訳をしたかと思えば、恋する女性ポリ－ナにはこんな両極端な事を言う。
「お金さえあれば、ぼくは、あなたにたいして、いまとは違う人間になれる、奴隷じゃなくて」
「あなたの奴隷でいることが、快感なんです。屈辱と無の極地に快感がひそんでいる！」
って、奴隷になりたいのか、なりたくないのか、どっちだよ！

　アレクセイはこの先もずっとこんな風で、ポリーナに対してどう振る舞いたいのかよくわからない。一寸先は闇だとわかっていながら、金を持てばルーレット場に駆け込む輩の心理状態もアンビバレンツの極みである。

　そこへいくと、矛盾しているようで矛盾していないのがきっぷのいいアントニーナ。本当の金持ちというのはこういう賭け方をするんだろう。プロのギャンブラーではないので負ける事もあるが、想定済みでその後の人生設計も済ませている。ああ、彼女の遺伝子を誰かが受け継いでいれば良かったのに。


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