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August 2, 2024
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みなさんこんばんは。パリオリンピック、柔道男子81キロ級で永瀬貴規選手が金メダルを獲得しました。永瀬選手は前回の東京大会に続く金メダルで、2連覇を達成しました。今日もゾラの作品を紹介します。

ゾラ・セレクション 6 獣人
La Bête Humaine
藤原書店
エミール・ゾラ

 ル・アーヴル駅の助役ルボーは、25歳の妻セヴリーヌと共にパリに来ていた。ルボーは、グランモラン裁判長を養父に持つセヴリーヌとの結婚で、今の地位に就くことができたため、彼女に頭が上がらない。また、ルボーは年の離れた15歳年下の妻にべたぼれだった。今か今かと待っていたら、買い物からセヴりーヌが戻ってくる。ルボーは、ふとしたことから、女性とのよくない噂が絶えないグランモラン裁判長とセヴリーヌの過去を責め、事実を知る。怒り狂ったルボーは殺意を抱くが
「この女をひと思いに殺せばよかった。今となってはとても殺せない。彼女をそのまま生かしておいた意気地なさで、彼の怒りはいっそうつのった。それは意気地ないと言うほかない。自分はいまだにこの女の命に執着して、こいつの首を絞めてしまわなかったのだから。」

 最初に登場するのはこの夫妻だが、彼らは脇役。54pにしてやっと主人公ジャック・ランティエが登場。本編の登場人物は鉄道関係が多いが、彼もまた機関士で、休暇中列車内での殺人を目撃する。殺されたのはグランモラン裁判長で、遺言により養女セヴリーヌにも、実の娘ベルトと変わらぬ金額が残された事から、ルボー夫妻の関与が疑われる。しかしジャックはセヴリーヌの懇願するような眼差しに負け、偽証する。

 読者には最初から犯人がわかっている倒叙式ミステリのような幕開けだ。しかし作品の肝はミステリではない。突如登場したランティエ家の一員ジャックは、クロードやエティエンヌの兄にあたる。彼もまた二人の兄弟に共通する狂気を秘めている。
「自分では治ったと思ったあの忌まわしい病気が!あの娘を殺そうとしたじゃないか!女を殺せ、女を殺せという声が、かつての青春時代の奥底からよみがえってきて、欲望でますます熱を帯び、たけり狂って耳元でうなっていた。他の男たちなら思春期の目覚めで一人でも女を自分のものにしようと夢見るのに、自分は女を一人でも殺そうとする思いに燃えている。」
 愛と殺意が自身の意思とは別に、同等に湧き上がる。実行に移せば精神鑑定を受けて減刑されるケースだ。

 解説では、ジャックの衝動による殺人が、殺人の正当性を述べて堂々とする『罪と罰』のラスコーリニコフと比されている。彼は、理性においては、セヴリーヌから唆された殺人を断っているが、内から沸き起こる衝動だけは制御できない。ジャック以外にも、殺人に踏み切るキャラクターが多数登場する。人間の制御できない欲望が、前に進み、人間などなぎ倒してしまう一種の怪物のように描かれており、本編のもう一つの主役=鉄道と被るように描かれている。ラスト場面の列車は機関士もいないまま、普仏戦争に向かう兵士だけを乗せて走る。最後に登場するのも、兵士という名の人殺しだ。
機関車はなおも未来へ向かって進んでいくではないか!機関車は死の中に放たれた。眼も見えず、耳も聞こえない獣のように、機関士もなく闇のなかをただひたすら走っていた。精鋭の肉弾兵たちは、すでに疲労でぼーっとなり、酔っぱらって、歌を歌いつづけていた。

 機関車の行く先も、普仏戦争を経たフランスの未来も、決して明るくない。しかしその事を知らない乗り手=人々は、何も知らず刹那的な楽しさに溺れている。世の中全体を表したかのようなラストで、何とも皮肉である。

 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。


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最終更新日  August 27, 2024 10:25:03 PM
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