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August 3, 2024
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みなさんこんばんは。アニメ「ドラえもん」の「のび太」の声を長年務め、外国映画ではブリジット・バルドーなど名優の吹き替えでも知られた声優の小原乃梨子さんが亡くなりました。
今日もゾラ作品を紹介します。

愛の一ページ (ゾラ・セレクション 4)​
Une page d'amour
エミール・ゾラ
藤原書店

 若き未亡人エレーヌ・ムーレは、娘ジャンヌがひきつけを起こして、主治医ボダンを訪ねるが生憎留守。別の医者を探して偶然戸を叩くと、その家に住んでいたのは、偶然にも医師のアンリ・ドゥベルルだった。眠らず娘につきそうエレーヌに懇願されて残ったアンリは、彼女の美しさに目を見張る。一方、エレーヌは後日礼に訪れた時、アンリの妻ジュリエットと、ジャンヌと同世代の息子リュシアンと出会う。

 結婚は夫からのアプローチで10代。特に不満を抱くことなく生きてきたが、アイヴァンホーを読んで最初は
「こういう小説って、嘘ばっかりだわ!これまで絶対に小説なんか読まなかったのも、もっともなことだったのだ。人生というものをちゃんと感じることのできない、頭が空っぽの人向けの作り話でしかないのよ」
なんて言ってたのに
「ここに書かれているようなこと、これはすべて真実なのかしら?」
と心境の変化が。

 本作の裏テーマはパリだ。エレーヌは病気がちの娘ジャンヌにつきっきりで、訪問者も決まっていて、外出もしない。そのため、ジャンヌに、パリの街のあちこちを指して、あれは何?といちいち聞かれても答えられない。
「ママもわたしも、何もしらないのね」
と言われる始末。この後も、エレーヌがパリの街自体に魅せられる描写は登場しない。しかし

 第一部、まだ恋を知らないエレーヌ達のパリ
「パリが、熱く、官能を刺激するような息遣いをふたりに送ってくるたびに、パリは、しばしばふたりを不安にさせるのだった。けれども、その朝のパリは、子供のような陽気さと無邪気さに満ちていた。パリの神秘は、ふたりの顔に優しさだけを吹きかけていた。」
 第二部 アンリとエレーヌがお互いの恋心を自覚する時のパリ
「夜の訪れに備えてさらに大きく広がった空は、真っ赤に照り映えた街の上で、金と深紅が静脈のように浮き出た一面の紫を円く広げている。赤く燃えていた火が、ふたたび勢いを得て、突然、ものすごい勢いで燃え上がった。パリは最後に炎を上げ、遥かにかすむ市外区の隅々までをも、一瞬明るく照らし出した。やがて、銀日色の灰が崩れてゆくように思えた。どの街も、火の消えた炭のように、軽く、黒みがかった姿で立ち尽くしていた。」
 第三部 遂に二人が告白した時のパリ
「明かりの灯ったパリの町の上に、光り輝くむら雲が昇ってゆこうとしていた。それは、赤く熾った炭火の真っ赤な吐息のようだった。はじめのうちは、闇の中に浮かぶ青白い光、ほとんど感じることのできない光の反射でしかなかったが、夜が深まってゆくにつれて、それは血のように真っ赤に染まっていった。天空に宙吊りになったまま、都会の上空で微動だにせず、都会から吐き出される熱気と、喧噪とでできたその雲は、あたかも、火山の火口にかかる燃え上がる雷雲のようであった。」
 第四部 母に置いていかれ、雨の中心細いジャンヌとパリ
「地平線では、パリが姿を消して、街の影のように漂っているだけだ。空と、めちゃくちゃにかき混ぜられて混沌と広がる町が溶け合って、ひとつになろうとしていた。灰色の雨が、あいかわらず降りつづいている。執拗に、止むことなく。」
 第五部 悲劇を乗り越えたエレーヌがいるパリ
「雪の上にはふたりの足跡だけしか残っていない。死んでしまったジャンヌだけが、たったひとりで、永遠に、パリの町を正面に見据えているのだった。」
 と、パリの街はまるでもう一人の人間のように、エレーヌ母娘の状態によって変化する。

 『居酒屋』と『ナナ』の間に書かれたまっとうラブストーリー。エレーヌは『ムーレ神父のあやまち』のセルジュや『ボヌール・デ・ダム百貨店―デパートの誕生』のオクターヴの父方の叔母にあたる。


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最終更新日  August 3, 2024 12:00:27 AM
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