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みなさんこんばんは。明治安田生命は、2027年度から営業職員以外の定年を今の65歳から70歳に延長することで労働組合側との協議を進めるということです。今日も山田風太郎作品を紹介します。

海鳴り忍法帖
山田風太郎
KADOKAWA

公方の雑仕である美少年・厨子丸と宣教師ルイス・フロイスは、公方・足利義輝の剣術指南、上泉伊勢守の弟子と奸雄・松永弾正の配下の根来忍者の試合を見る。
勝負は根来忍者の勝ち。唇をなめ、こう言うは、弾正。
「公方様、勝ったら私の欲する物を何でも与えるというお約束の履行を。奥方様か、昼顔の方のいずれを拝領いたそうか。」

いかにも
「おお、これから忍法バトルの始まりか？」
と思わせる冒頭だが、実は剣法と忍術が全く別次元のもので、勝負にもならない事がよくわかる。
そしてこの図式は、そっくりそのままクライマックスの堺攻防戦に引き継がれる。
松永弾正は、選りすぐりの根来忍者達を堺に送り出す。
彼ら一人一人にどのような能力があるかが、3ページにわたり延々と描かれる。
「作者自ら『異次元世界の忍法オンパレードだ』と述べるほどの異能の輩が、どんな戦いを繰り広げるのだろう。」
読者の期待を、盛り上げに盛り上げていった結果、彼等は実にあっけなく、別次元の近代兵器に敗れる。
著者が例に挙げているように、この状態は、まさしく太平洋戦争の日本とアメリカそのもの。
「なんじら根性が足りぬ!精神力が足りぬ!敵の新兵器が何じゃ!物量が何じゃ!」
と叱咤される場面は、
「そういう問題じゃないだろーが!」
と突っ込みを入れつつも、
太平洋戦争末期の戦士達の様子が推測されて。
いや、山風氏。皮肉がきついきつい。
主君の妻・夕子、彼女に恋する厨子丸、夕子の身代わりに酷い目にあう鶯、厨子丸を誘う昼顔の構図は、『伊賀忍法帖』の右京太夫に恋する笛吹城太郎、その妻で弾正の野望のいけにえになる篝火、城太郎を誘惑する漁火の人物相関図とそっくり。

興味深かったのは、二人の人物。
一人は、
「わたしの胸には、何匹かの邪悪な蛇が、かまくびをもたげ、うねうねとからみ合っています。」
と、カミングアウトする公方の側室、昼顔の方。
正室・夕子を憎む彼女は、『室町お伽草紙』で身代わりにされたために、香具耶を憎む玉藻の前とよく似ている。
「なぜ彼女と自分は、違う扱いをされるのか。」と理不尽を訴える彼女に、吉田秋生漫画『PRIVATE OPINION』で、
「もしアッシュがもっと別の環境で育っていたら」と想像をめぐらすブランカの独白が思い出された。
タマゴが先か、鶏が先か。生得か、環境か。けれど、もはや今となっては、
別の生き方はできない。開き直って魔道を行く彼女の後ろ姿は、恐ろしく、かつ哀しかった。

もう一人は、厨子丸。最初は「人を殺せない」と、戦国の世らしからぬ台詞を吐いていた彼が、堺で武器の開発に取り組んだ途端、殺人に対する罪悪感がどんどん希薄になる。
イタリア王になりたかった男・チェーザレ・ボルジアに雇われ、法王軍の軍事総監督として、有蓋戦車、マシンガン、大砲、投石機を製作していったルネサンスの天才レオナルド・ダ・ヴィンチと、自由都市堺で、大砲、証明弾、地雷、煙幕を次々と作り出していった厨子丸は、とてもよく似ている。技術者は自分にその意思がなくても、時に殺人機械を作り出してしまう。
「モラルと純粋な知的好奇心、どこで線を引くべきなのか」という問いへの答えは、今もなお、見つからない。

まぼろしの市街戦で描かれる、「絶対なさそうな事」「有りえるけど歴史上は書かれていない事」そして、架空であろうが実際であろうが、「今も昔も変わらぬ事」。
これらを巧くブレンドして、エンターテイメントに仕上げながら、
通低音のように流れる人間普遍のテーマを伝えてくれる作品。

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