映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさんこんばんは。『星の王子、ニューヨークへ行く』などに出演していた米俳優のジョン・エイモスさんが84歳で亡くなりましたね。今日はミステリを紹介します。

象られた闇​
The Shape of Darkness
ローラ・パーセル
早川書房

　　表紙絵も切り絵をイメージしたイラストが多い。但しシルクハットを被った男の首は鋏で切られている。さて、それはなぜ？

　自分のアートに熱中するあまり、紙くずとハサミを公園に運び、興味深い見知らぬ人の「練習カット」をするアグネスから物語は始まる。パーセルは「影と実体は、まったく似ていない」という、現代では珍しい職業である切り絵作家を理解するために、必要なすべての情報を提供している。アグネスは、人物の類似性を生み出すためにどの特徴を含め、強調するかを選択する才能を持つ。彼女の切り絵制作の際に使う場所とそうでない場所を切り分ける作業と呼応して、彼女のナレーションが、何を含め、何を除外するかを選択していることを示唆している。これは、彼女自身の叙述にも多少疑わしい可能性があるという、読者への警告である。

　序盤、読者は、部屋も暗ければアグネスの衣装も黒一色と、きわめて暗い雰囲気に放り込まれる。まるで弊社恐怖症の人と一緒にいるかのようだ。また読者は、アグネスを苦しめた肺炎-現代のコロナ禍を想起させる-と彼女の健康状態を永遠に変えてしまった期間に、一体何があり、何が彼女を変えてしまったのか？と好奇心をそそられる。

　アグネスは常に秩序を守り、中立的で、甥のセドリックと、その父(訳アリであることがわかってくる)でアグネスの長年の友人である医師サイモン、愚痴ばかりの母との暮らしを守るために働いているが、家族からはひどく過小評価されている。だから訪れる顧客の前で彼女が熱意と喜びで表情を変えるのを見ていると、普段どれほど孤独であるかがわかる。彼女の過去には非常に個人的な悲劇がある。彼女の妹コンスタンスは亡くなっているが、彼女の存在が常に生者に陰を落とす。この辺りが『レベッカ』を想起させる。

　もう一人の主人公パールも、死者に取りつかれている。自分を救うために姉が母を見捨てたと思っており、降霊会を開いて母と再会することだけを願っている。アグネスとパールの物語は、殺人と悪天候が続く暗い街で交錯し、やがて二者の意外な関係が明かされる。未婚者と煤と幽霊だけが残った、かつて栄光の町だったバースで、パールの姉マートルが言うように“ショーを望んでいる”人たちが降霊会を密かに開き、悪い評判が立ったアグネスの店を訪れる。殺人事件であり、捜査機関として警察はいるが、主人公と協力体制にない。自らの顧客が次々と殺されることに不安を感じたアグネスが動き出すことで、周囲もまた動く構成になっている。

　アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞最終候補。


象られた闇【電子書籍】[ ローラ パーセル ]​​楽天Kobo電子書籍ストア​