いかにも「らしい」 森版『卒業』~ミステリ「蝶々夫人に赤い靴(エナメル)」
みなさん、こんばんは。何かもうニュースで「危険な暑さ」と連呼されるのが当たり前になってしまいましたね。日本で涼しい所はどこ?さて、今日も森雅裕作品を紹介します。蝶々夫人に赤い靴(エナメル)森雅裕オペラ歌手の鮎村尋深と画家の守泉音彦。尋深は長崎のグラバー邸にて開催されるクリスマスコンサートで、『蝶々夫人』のタイトルロールを演じた後、地元の名士の息子と結婚式を挙げる予定になっていた。たまたま京都にいた音彦は、受け取りそこねた履物を届けるようにと尋深から依頼されたが、乗っていた列車で、無賃乗車の老人・愛子になつかれてしまう。刀鍛冶と結婚した元プリマドンナ・愛子は、坂本龍馬を殺した刀を持っている様子で…。オペラをメインモチーフにした尋深&音彦シリーズ第三弾にして、刊行された作品としては最終作。第一作『椿姫を見ませんか』では椿姫のモデルの謎、第二作『あした、カルメン通りで』ではカルメンを演じたマリア・カラスの謎に挑んだ二人が、本作では蝶々夫人の史実を探る。そして、友達以上恋人未満で続いてきた12年の腐れ縁にも、遂に決着の時が。謎解きと二人の関係の行方、後者が気になる。だって、謎の追求に向けては、何者をもおそれていない彼等なのに、お互いの本当の気持ちについては、矛先が鈍い。その理由は、シンデレラの忘れたガラスの靴よろしく届けに行く音彦も、意味ありげなオペラの一節を歌いまくる尋深も、筋金入りの意地っ張りで、臆病。傍観者が毎回挑発&助言するが、本人達は巧妙に躱すか、無言。特に音彦、『卒業』のダスティン・ホフマンと違って、教会ならぬ式場に入るパスポートもタキシードもあるのに、やっぱり腰が引けている。ああ、もう、じれったいったら。やっぱりヒロインは強かった。そうそう、「いつ沈没するか知れない船を待っていない」(『さよならは2Bの鉛筆』 )のが森ヒロイン。最後の最後に至るまで、キスシーンも抱擁もなしで、とどめに出てくるのがアレとは、さすが『パタリロ!』 ファン。それにしても、とことん照れ屋なんだなぁ、著者も主人公達も。この二人のその後を想像すると、『さよならは2Bの鉛筆』のヒロインの両親、ヴァイオリニストの諏訪幽穂と、ハードボイルド作家の鷲尾昌宏が浮かぶ。二人の娘が暁穂でも、全っ然問題ないでしょう。だって暁穂の得意技は、尋深と同じく中森明菜の物真似なんだから。【中古】蝶々夫人に赤い靴(エナメル) 雅裕, 森BOOKS 21