不老不死とはどういうことか ものがたりとは何なのか~大島真寿美「ゼラニウムの庭」
大島真寿美さんを知っていますか?最初は児童小説からスタートしたのですが、NHKドラマの原作になるなど、最近では大人向けの作品で知られています。今回は、彼女の最新作を紹介します。ゼラニウムの庭大島真寿美彼女の祖母・豊世は、作家となったるみ子に、とある女性・嘉栄について“ものがたる”。るみ子がずっと親戚の女性だと思い込んでいた彼女の生涯は、常識では考えられないくらいに数奇なものだった。その内容を記述したものが本書である、という設定だ。しかし物語には付記がついている。ずっと他人の口から“ものがた”られてきた嘉栄が、もう一度、自分の口から、その生涯と思いについて“ものがたる”。 前作『ピエタ』で、初めて物語の舞台も主人公も外国に移し替えた大島さんが、次に選んだ舞台は何度も書かれてきた日本。しかし、先に挙げたように、登場人物にちょっと捻りがあり、描かれる時代幅もかなり広い。更には、作品の中に複数視点が使われたのも初めてではなかろうか。一人の視点で一旦完結した物語が、実は本当の主人公―嘉栄―の視点からもう一度語り直されることで、俯瞰的に一族の歴史を見ることが出来ると共に、人はさほどに他人を理解するのが難しいか、ということも感じ取れる。 “人と違う年の取り方をする”という設定は、ブラッド・ピットが主演した『ベンジャミン・バトン』が名高い。年の取り方こそ違え、「自分と同じ人生を歩んでくれるパートナーを得られない」「心の成長と体の成長が異なるが、他人は体の成長から自分を判断するため、長い期間にわたって共感・同意を得られる相手がいない」という境遇は同じだ。 人生も半ばを過ぎた人の中には、アンチエイジングと称して、いつまでも若くあることを願う傾向が強いが、本当に若いままであれば、それは幸せな人生なのか。若さと引き換えに「この世の理の外におられる(p144)」ことを常に自覚しなければならない嘉栄の心情吐露によって、一つの答えは提示される。とはいっても―だいたい、プロ作家の描いた原稿(という設定)に文句をつけるあたりから、想像がつくだろうが―嘉栄はなかなか気丈である。登場人物の境遇に泣いておしまい、なんて思っていたら、蹴りをくらわされるので、ご用心を。ゼラニウムの庭著者:大島真寿美価格:1,575円(税込、送料込)楽天ブックスで詳細を見る