いきざまおじさん
おもしろいしゃべり方、しゃべり方にクセのある人ってけっこういるもんだ。吃音っていうか、しゃべり出しにかならず詰まる人。語尾に~なんだい。って、なぜだかわからないけどつけちゃうひと。俺ってそういうひととつきあってるとだんだんうつってきちゃうんだよね。しゃべり方が。方言とかもいつのまにか似たイントネーションでしゃべっちゃう。危険です。で、いきざまおじさんなんだけど、この話はちょっと違う。今までの前段はなんだったの?ってことになるが、話の流れって事で。大学の時、仲間12人とギャラリーを借りてグループ展をひらいた。で、もちまわりで空いてる時間にギャラリーで留守番することになった。その日は俺と、テコンドー君(仮名)が一緒の番だった。昼間なんてめったにお客さん来ないんだけどさ、友だちの家族とかは来てくれてそれなりに暇でもなかった。たまたま誰もいなくなった時、見知らぬおじさんが入って来た。しばらく見てまわって、入口の所のデッサンにまたもどってくる。バーチャファイターのキャラクターを木炭デッサン調で描いたものだ。「すごいな。上には上がいるもんだ」と、しきりに独り言を言いながら感心しはじめた。しばらくすると、こっちに来てしゃべり出した。「すごいねー。上には上がいるもんだね。わたしもやってるんだよ」そのおじさんが出したのは小さなアルバム。なんか変な作品の写真が入ってた。なんだこれ?と、思いながらも、「へぇ~」って見てたら、そのおじさん、いろいろと語り出した。ゴッホの話らしい。(あんまり聞いてなかった)「(前略)~いろんな画家がいるがゴッホはその、イ~イ~イ~いきざまが!壮絶で~」なんだ?いまの「イ~イ~イ~いきざまが!」って部分、急に力みだしておかしくなったぞ?俺とテコンドー君は顔を見合わせた。そのあともなんか話してたんだけど、内容はよくわからんが、しばらくすると、「ゴッホはその、イ~イ~イ~いきざまが!」またキタ~。なんだ?同じ話だったのか?「ゴッホはその、イ~イ~イ~いきざまが!」またキタ~。どういうわけかしらんが、イ~イ~イ~の部分がくり返されるんですよ。またそれが耳につく。それに、妙に力むもんだから、こっちも力が入っちゃう。どうやら怪しいおじさんだと思ったが、お客さんだからほっとくわけにもいかず、俺たちはしばらくその話につきあわされた。なんだったんだ?と、はなしてると。ギャラリーのお姉さんが。よくくるのよー。って教えてくれた。常連さんらしい。で、ゴッホをすごく尊敬しているらしい。俺とテコンドー君はそのおじさんをいきざまおじさんと名づけた。