ハレー彗星は、約76年周期で地球に接近する短周期彗星だが、古くからその存在は知れ渡っており数々の文献に記されている。前回見ることが出来たのは1986年、次回この地球に接近するのは2061年頃と考えられているが、そのハレー彗星同様に滅多に見ることが出来ないサッカーチームとサッカー選手がこのワールドカップで登場する。前者はスペイン代表チーム、後者はアルゼンチン代表のリオネル・メッシだ。多くの日本人やマスコミは優勝と言えば短絡的にブラジルを連想してしまうが、前回紹介した海外サイトの賭け率を見てもスペインとブラジルは拮抗しながらも、ややスペインが優勢。個人的にはブラジルも優勝候補だと思ってはいるが、見ていて華のあるサッカーではない。
EURO2008、いわゆる欧州選手権は2004,2008とオリンピックと同様に四年周期で開催される欧州限定のサッカー界の一大イベントだ。欧州限定とは言いながらもこれにブラジルとアルゼンチンを加えればワールドカップと同質の大会となるので、サッカーファンにとっては見逃すことが出来ない大会の一つなのだ。その欧州選手権で見せたスペインチームの華麗なパス回しが圧巻だった。ゆったりと横にボールを動かしながら相手の守備陣形を確認しつつ、ここに隙ありと思ったその瞬間にはまるであいくちで喉元を突き刺すようなキラーパスが入ってくる。テレビで上段から俯瞰(ふかん)している我々でさえも見つけにくいパスコースを、フィールドを縦横無尽に駆けめぐっているフィールドプレイヤーが瞬間的に判断してボールを通してしまう。我々の日常生活で例えるならば、全力疾走で駆けめぐりながら針の穴に糸を通してしまうほどの難作業と言っていいかもしれない。
何のために横パスを出すのか?横パス、横パスと連続で展開すれば相手の守備陣形は、ボールの動きに連動してどうしても広がってくる。守備陣形が広がれば当然相手のプレイヤーとプレイヤーとの距離も広がってくる。そこを狙って縦パスを繰り出せば、守備陣形が狭小のときよりも縦パスを相手に取られる可能性が低くなってくるのだ。だから相手に取って致命的なラストパスを出すための事前段階としてどうしても必要なのが揺さぶりをかけるための横パスなのだが、これが全く出来ないのが現在の日本代表だ。ここ二試合を見た限りでは、常に横パス、横パスの繰り返しでくさびとなる縦パスが一向に入らない。守備をする側からすれば横パスは怖くないが、縦パスは抜かれればゴールに直結する可能性が非常に高くなるために、とても嫌なものなのだ。
左から右へ、あるいは右から左へ。フィールド横幅一杯を使ってロングボールを流しているとき、あるいはすぐ横に居るプレイヤーにボールを預けているときは、はた目には骨休みしているかのように映るだろう。だが、シャビ・イニエスタ・シルバ・セスク・シャビアロンソで構成される中盤は、ほんの片時も休めることなく相手の裏をつく観察眼を持っているのだ。隣のプレイヤーにボールを渡したり、あるいは一人飛ばしてロングボールを蹴っているときでさえ、常に相手の出方を探りながら、一瞬の気の緩みを探す。ゆったりとしたボール回しから、いきなりトップスピードに切り替わるその瞬間は、まるで獲物を追い詰めた捕食者が飛びかかる様子を連想させてしまうほどだ。しかも最後のとどめを刺すのはビジャ・フェルナンドトーレスという、これまた世界を代表するフォワードだ。現時点でフォワードだけに限定すれば最強はなんと言ってもアルゼンチンだろうが、スペインのこの二人のフォワードの破壊力それにも勝るとも劣らずだろう。
近年これほど美しく華麗なパス回しの連続から一気にゴールまで持って行けるチームは見たことがないが、それぞれのプレイヤーの年齢を考えてもいまが一番旬の時。誰もが認める最強チームは果たしてワールドカップ優勝を達成出来るのだろうか?H組一位通過は当然としてもトーナメント初戦はポルトガルかコートジボワール、そしてその次はイタリアの可能性が非常に高い。グループリーグでいくら力を温存していたとしても対イタリア戦では全力で戦わなければ勝てることは出来まい。前回の王者を倒すためにたとえ勝利を収めたとしても息切れすることだって充分にあり得るのだ。
圧倒的に卓越した個の力がこれだけ結集するのは、前述したようにまさに彗星周期だろう。そしてその中心となるのはシャビ・イニエスタだが、願わくば負傷欠場することなく最後の決勝戦まで勝ち進んで欲しいものだ。グループリーグは単なる前座、余興。ワールドカップが面白くなってくるのは勝ち抜き戦、トーナメントになってからだ。来るべき難敵に備えてグループリーグでは力を温存していたが、トーナメントになればなりふり構わず力を出し切らなければ確実にやられる相手との厳しい戦いが続くのだ。日本代表チームだけを見ているのは枝を見て森を見ないのと同じこと。近年まれに見る個の集合体が彗星周期で結実し、長短織りなす華麗なパスワークから一気にゴールを奪うまでの組み立てはそうそう見られるものではない。EURO2008に続き是非ともその歴史に名を刻むことを祈りたい。
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