2010年06月21日 読売新聞 夕刊07頁より引用
写真はアルゼンチン対韓国戦のメッシのループパスの瞬間を捉えたものだ。YouTubeにアップされている動画をじっくり見直すと、Aの選手はメッシのやや後方に居るものの、直接プレイには関係していない。なのでメッシは四人の選手に囲まれているのかと思いきや然に非ず。BとCの選手のすぐ後ろにもう一人の選手が居るので、実際には五人の選手に囲まれていることになるのだ。
ゴールキーパーを除くフィールドプレイヤーは全部で10人。その内の半分がこのメッシの周囲に居たことになるが、通常これだけの人間に囲まれるとフォワードとしては為す術が無くなる。が、メッシの場合は自ら意図的に窮地に追い込んでいくかのような素振りを見せつつ、実はキラーパスを進行方向のやや離れた先に居るアグエロに通すことを狙っているのがよく分かる。狡猾な一瞬の閃(ひらめ)きを確実にしているのは何よりも類い希なドリブルワーク。メッシが五人の韓国人選手に囲まれていると言うことは、裏を返せば少なくとも四人のフリーでいるアルゼンチン選手が存在していることになる。従ってこの状況で韓国人選手が考えなければいけないことは絶対にメッシにパスを通させないことだ。通されてしまったが最後、四人のアルゼンチン選手は敵対する韓国人選手が居ないから楽々とゴールを決めることが出来るのだ。
それにしても奇妙な写真だ。現時点でメッシ以上に華麗なステップワークでドリブルをこなすことが出来る選手は存在しない。なのでこの場面、この場所でメッシがドリブルを開始したとすれば、即座に対応しなければ確実に一点を失ってしまう。守る側からすれば失点を防ぐためにメッシが次に取る行動を予測しなければならないはずだが、背番号7番(パクチソン?)のFだけが反応が遅れており下を見つめたまま。B,C,Eの選手はボールの動きを目線で追っているかのように見えるが、Fの選手だけ視点が異なるのだ。
この状況になれば後手後手に回るため守備をする選手は攻撃する選手が次に取る行動を予測しながら動く。このレベルの選手が四人揃っていても一人だけ異なる反応を示しているという事実は何を指し示すのだろう。単純に考えれば反応が遅れたと捉えることも出来るが、だとしたらそのあまりの素早さに四人の内の一人が遅れた瞬間を捉えた決定的な写真と言っていいかもしれない。このレベルの選手を持ってしても予想を遙かに上回る速さをメッシは持っているのだ。
このあと動画はメッシからアグエロにループパスが渡るところを捉えているが、アグエロもまた心憎いセンタリングを上げている。ノートラップのダイレクトパスでゴール反対側に居るイグアインへごっつぁんゴール。メッシのループパスで右に動かされたと思ったら、今度はアグエロのダイレクトパスで左に動かされる。そしてとどめは定石通りゴール右隅へとこれだけ振られたらキーパーとしてはもう完全にお手上げだ。上空から見ると守備をしている韓国人選手がまさに文字通り行き場を求めて右往左往している蟻のようにすら見えてしまう。難易度Eクラスの所行をいとも簡単に誰でも出来そうなくらいに見せることが出来るのは確固たる技術の裏打ちがあればこそ。たった二人で五人の韓国人選手をかわしてしまったアルゼンチンだが、その磁場の中心に居るのがメッシだ。今大会はまだ無得点だが、その存在感はすでに全てのサッカー選手を完全に圧倒している。
グループAの最終戦、ウルグアイ対メキシコ。南米選手権で何度も戦っているためにお互い手の内は知り尽くしている相手同士だ。両者共にグループリーグ突破が確実な状況ともなれば、最終戦はちんたらゲームの引き分け試合かと思ったら実は違った。グループAを首位で通過するのと二位で通過するのでは意味合いが全く異なるからだ。グループAを二位で通過するということはトーナメント初戦はメッシ率いるアルゼンチンが相手。みんなアルゼンチンとやりたくないのだ。グループリーグまでは組織力で突破出来たとしても、ここから先のトーナメントは組織が出来ていて当たり前の強国ばかりが登場する。そして雌雄を決する戦いとなったときに最後にものを言うのは圧倒的に卓越した個の力なのだ。
私が最後にそれを見たのは1986年メキシコワールドカップだった。当時の神様は神の手を使い五人をごぼう抜きして優勝したが、いまでもその存在感は抜群だ。アルゼンチンの試合開始前には、全てのプレスが神様の前に鎮座し一斉にフラッシュをたく様子は神々しく未だその威光に陰りのないことを証明しているが、メッシが爆発したときにその威光は徐々に移り始めるのだろうか?それにしても今現在の神様は絵になる。現役選手でもないのに南アフリカワールドカップに奇異な磁場磁力をもたらしているのはひょっとしたらこの神様なのかもしれない。
追記 日本対デンマーク戦、全部まだ見ていないので見てから感想を書きます。
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