グーグル検索で『三禁表示』と検索をかけても引っ掛からない。なので殆どの人が知らなくても無理はないのだが、三禁表示とは我々の業界用語で『禁煙・火気厳禁・危険物品持込み厳禁』表示のこと。ある一定の要件を満たす建物や施設には設置が義務付けられており、その詳細は『火災予防条例施行規則』に記載されている。一般的にはその建物や施設の入口付近に設置されているが、気に留める人はまず居ないだろう。設置由来までは分からないが、その言葉の内容から判断してもすでにほぼ常識化している注意事項であり、ことさら改めて指摘されるまでもないことだからだ。
が、この三禁表示サインは我々にとっては厄介極まりないもので、時と場合によってはこの三枚を取り付けるだけでも多大な労力と必要とする。建物のグレードが高くなればなるほど、それに比例するかのごとくその労力は増してゆくのだ。市販品としても売られており、1枚あたり数千円程度。従って三枚購入しても壱万円あればお釣りが来るほどで、単純に考えれば市販品三枚買ってきて入口付近に貼っておしまいと思いきや、事はそう簡単に運ばないのだ。
というのも最大の問題はその色にある。火災予防条例施行規則にははっきりと赤字に白色と書かれており、これが建物の持ち主や設計者にとっては頭痛の種となる。建物や施設の格式が高くなればなるほど一番お金をかけるのが入口付近で、その建物を訪れた人たちに対してその建物を格式の高さを認識してもらうために、それこそ壁には白い壁面石や落ち着いた配色のタイルを敷き詰めたりするわけだが、それがこの赤色によって台無しになってしまうのだ。これだけ上質な空間に仕立て上げているのに赤色べたは無いだろうという訳だ。せっかく贅を尽くした上品な場所なのに、なぜ赤くて白文字の安っぽい禁止表示サインを付けなくてはならないのだという怒りにも似た感情が沸き出してくる。
先日応対してくれた消防署の人でさえ、いまどき赤べた白文字の三連表示は無いのは分かると同情してくれたものの、火災予防条例施行規則に記載されている以上、法を曲げるわけにはいかない、いくら台無しになったとしても立場的に設置を求めなくてはならないんです、と説明していた。が、言われた通りに赤べた白文字の三禁表示を設置するだけでは芸が無い。顧客よりは上質空間に見合ったデザインのサインを求められ、消防署からは施行規則に乗っ取った法令遵守の赤べた白文字のデザインを求められると、両者の折衷案として妥協の産物が数々と生み出されてくる事になる。
その事例をいくつか挙げると最初の写真。費用の面で考えれば三枚のステッカーを壁に貼れば取り付け費用込みでも数万円程度なのに、さすがにこの壁にこの赤色は許せなかったのだろう。ライトグレーのフラットバーを格子状に組み合わせたスタンドサインを特注で製作し、透明アクリル板に赤色ステッカーを貼るという手法で壁に貼る愚行だけは避けたかったというところではないか。推定費用1台あたり10万前後。建物の入口が一箇所だけならまだしもこのスタンドサインが設置されている建物のように両手使っても全く足らないような巨大施設になると、その費用は馬鹿にならない。
続いてがこれ。シャネル、ブルガリがテナントとして入居する表参道ジャイルだが、反則技すれすれの、この場所にあってもまるで役に立たないのではという疑問はさておき、取りあえずこれで法令遵守の立場は貫き通した事になる。ご覧の通り色は赤色というよりは殆どワインレッド。赤色の許容範囲内と見るのか拡大解釈と捉えるのかは人それぞれだが、やっぱりデザインを意識するとどうしてもこの配色になってしまう。そして自立サインのリニューアル後には、さすがに地面すれすれでは申し訳ないと思ったのか、今度は裏面の一番目立たないところに持ってくるという徹底ぶり。個人的には様々な妙案をひねり出したその見識に拍手を送りたいが、それにしても火災予防条例施行規則も時代に見合った改正をして欲しいものである。
2007年12月07日に掲載した『表参道に商業施設 GYRE(ジャイル)誕生』
2009年12月22日 参道ジャイルのテナント表示-その2
Googleマップ ストリートビューで見たい方はクリック
過去に掲載した"表参道の散策シリーズ(No.1~No.58)"はこちらから。
●2010年06月02日 ルイヴィトン表参道のペレとマラドーナとジダン
●2010年03月31日 NIKEフラッグシップストア原宿のブラジル代表
●2010年01月21日 表参道アニエスベー ボヤージュ(Agnes b. Voyage)のリニューアル3
●2010年01月05日 ゴディバ・ショコイスト原宿の外観
●2009年12月18日 表参道の散策-その54"ルイヴィトン表参道"
●2009年12月17日 スワロフスキー表参道
●2009年12月09日 NIKEフラッグシップストア原宿
●2009年09月03日 表参道・青山通りの瀟洒なサイン
●2009年08月07日 ●視覚で涼を感じる装飾●
●2009年07月09日 原宿H&Mの夜景
●2009年07月03日 ●倶楽部PASONA・表参道の入口●
●2009年06月30日 ●原宿Forever21の外観●
●2009年06月25日 ●原宿H&Mの外観●
●2009年06月19日 ●原宿H&Mのここが凄い●
●2009年05月20日 ●表参道アニエスベー ボヤージュ(Agnes b. Voyage)のリニューアル2●
●2009年05月12日 ●表参道の散策-その43●ルイヴィトン表参道
●2008年12月03日 ●表参道の散策-その42●ガラス重層サイン
●2008年11月20日 ●表参道の散策-その41"アニヴェルセル表参道"●
●2008年11月19日 ●セントグレース大聖堂とヴェロックス●
●2008年08月18日 ●表参道アニエスベー ボヤージュ(Agnes b. Voyage)のリニューアル●
●2008年06月30日 ●表参道ヒルズのリニューアル●
●2008年06月18日 ●1965年頃の表参道の風景●
●2008年04月22日 ●こだわりのパンとケーキ"オパトカ(opatoca)"●
●2008年04月18日 ●表参道の散策-その35●東京ユニオン教会の広告●
●2008年04月15日 ●表参道の散策-その34●GUCCIの広告●
●2008年04月11日 ●表参道の散策-その33●北青山3丁目テナントビル●
●2007年12月19日 ●表参道の路地裏を散策すると●(No.1~No.27)