日頃親しんでいる欧州南米プロサッカーと比較するのが間違いというのは理解しているが、正直なところ、女子サッカーはレベルが低すぎて見ているのが苦痛だ。自国の代表チームなので応援したいという気持ちは分かるが、もし仮に全員が日本人ではなくて、韓国人やベトナム人だったとしたらそれでも見る気になるのだろうかという疑問はさておき、先日新聞を読んでいたら奇妙な意見が掲載されていた。
原稿料をもらっている以上ある程度の提灯持ち記事や迎合記事となるのは仕方がないが、もし本気で書いているとしたら困ったものだ。オリンピックサッカーは基本見ないのでネット・新聞記事から判断しているが、アマチュアスポーツの祭典とは言いながらも、男女サッカーに限って言えばやはりプロと同様の試合運びや流れになりつつあるのだろう。
●引き分け狙い…なでしこ、フェアプレー精神はどこへ
しかし、ロンドン五輪での女子日本代表(なでしこジャパン)はまったく立場が違う。前年の女子ワールドカップを制した世界チャンピオンであり、カーディフには何千人もの日本人ファンがつめかけていた。
日本でも眠い目をこすりながら数多くの少年少女が期待に胸をときめかせて見守っていたに違いない。
そして、佐々木則夫監督の会見はすべて英語に訳され、世界に伝えられる。「2連敗のあと、世界チャンピオンに引き分けることができて、私は選手を誇りに思う」とコメントした対戦相手、南アフリカのムクホンザ監督や選手たちは、佐々木監督のコメントを聞いてどう感じただろうか。
何より、なでしこジャパンと同義語ともいえた「フェアプレー」の精神はどこへ消え去ってしまったのか。そしてまた、相手チームに対する「リスペクト」は……。
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しかし、試合前に佐々木監督は選手たちに「状況次第では引き分け狙いにすることもありうる」と話したという。
主力を休ませるためとは分かっていても、ようやく巡ってきた先発のチャンス、選手によっては初出場のチャンスに燃えていなかったはずがない。しかし、佐々木監督の言葉は燃えさかろうという瞬間に水をかけたようなものだった。
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佐々木監督は批判を承知のうえで2位となることを選んだ。それは、何が何でも準々決勝を突破しなければならないという強い思いがあるからに違いない。
準々決勝を突破できれば、メダルは目の前。悪くても前回と同じベスト4だ。
しかしベスト8で止まれば、なでしこジャパンも佐々木監督も猛烈な逆風にさらされ、昨年来の女子サッカーブームがあっという間に冷え切ってしまう恐れがある。
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佐々木監督も選手たちもあまりに重い重圧を背負っている。昨年のワールドカップ以後、なでしこジャパンの選手が勝っている試合の終盤にコーナー付近でボールをキープし、時間をかせごうという行為を見せるようになった。負けることによって「失うもの」が大きくなった証拠だろう。
とにかく、佐々木監督となでしこジャパンは、準々決勝で勝つこと以外にこの試合の「汚名」をそそぐことはできない。自らをそこに追い込み、最高のコンディションで最高のパフォーマンスを見せて勝つ以外にないと考えている。
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そして私自身は、たとえ準々決勝で勝とうと、そしてたとえ金メダルを取ろうと、この南アフリカ戦でのなでしこジャパンの試合をずっと残念に思い続けるだろう。
眠い目をこすりながらテレビの前で試合を見守った少年少女たちを含めた日本中の人々を落胆させた罪は、けっして小さくはない。
『引き分け狙い…なでしこ、フェアプレー精神はどこへ』は一読すると正論のようにも思えるが、中学や高校生サッカーならいざ知らず大人のサッカーでそれはないだろうと思っている。オリンピックサッカーで優勝するまでに一体何試合あるのかは知らないが、グループリーグ初戦から優勝決定試合までは例えるのならば富士山登頂のようなもの。
全試合精力を込めて戦うと途中で息切れしてしまい、最後の肝心な優勝を決める戦いでベストの体調で臨むことが出来ないのだ。富士山登頂するにあたり最初から最後まで全速で駆け上がることが出来る人間が居ないのと同様に途中で休憩するのは当たり前だろう。まして今回はなかば優勝を義務付けられているといってもいいぐらいに女子サッカーへの期待度は高いはずだ。
もちろんグループリーグの展開によっては抜ける試合が一つもない、まさに実力伯仲、最終戦まで突破出来るチームが分からないもつれ込んだ状態になることもあるだろうが、今回だけは神のご自愛と利するだけの判断が代表チーム監督にはあってしかるべきなのだ。
陸上競技でも最終レースに的を絞っている金メダル候補の選手は、予選を完全に流しており、真面目に走らない。それと同様で金メダル狙いでオリンピックに参加している以上、捨て試合はあって当然だし、見る側もそれを織り込み済みで観戦するのだ。だから逆に言えば、『この南アフリカ戦でのなでしこジャパンの試合をずっと残念に思い続けるだろう』『日本でも眠い目をこすりながら数多くの少年少女が期待に胸をときめかせて見守っていたに違いない』ではなくて、殆どのオリンピック種目は一発勝負に近い、あるいは数日で決着がつくのに、サッカーは試合開催期間が他の種目とは異なり長期間に渡る、従って精神的に緊張を強いられる期間が圧倒的に長い、なので途中で手を抜いたり、捨て試合があるのは仕方のないこと、最終目的が優勝である以上やむを得ないんだよね、と教えるのがマスコミの仕事だろう。
日本代表が将来的にワールドカップで勝ち進むために何よりも必要なのは、正しいものの見方と考え方を多くの人達に知ってもらうこと、そしてその役割を果たすのはマスコミ以外にあり得ないと思っている。その意味でマスコミの責任は非常に大きいものがあるのだ。『引き分け狙い…なでしこ、フェアプレー精神はどこへ』、南米の人間が聞いたら薄笑いしそうなご託宣が通用するのは日本国内限定、海外に行ったら小馬鹿にされるだけだ。『眠い目をこすりながらテレビの前で試合を見守った少年少女たちを含めた日本中の人々を落胆させた罪は、けっして小さくはない』どころか、このように間違った見識を掲載する方が罪深いというものだ。
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