小説感想・『満願』(米澤穂信先生)
明日から、想像したくもない地獄の連勤です。今日中に読み切れてよかった! 新作♪ 新作♪ 新作♪『満願』(米澤穂信先生・新潮社・2013年)それは果たして罪と呼べるのだろうか?男が女が、善悪を超えて守ろうとしたものは何か?↑オビのあおり文句です。6作の短編で構成される1冊ですが、「儚い羊たち~」のようなシリーズ?ほどではないにしても、1冊読み切った時に、「あぁ・・・」と納得の筋がありました。大・満・足!!です。 *以下、ミステリー作のネタばれあり感想です。お気を付けください*アオリ文には、「罪と呼べるのか?」とありましたが、これは・・・即、回答可能です。「呼べます。」6作中、思いっきり殺人事件が3件。殺人事件ではないにしても、それを引き起こしかねないような悪意が・・・残りの3件、かな。間違いなく、「罪」は「罪」です。ただ、そんなことは登場人物たちも重々承知で、アオリの後半の1文にもあるように、この連作、共通しているのは、どうしても、その人のその人たる根源があって、譲れないんですよ。それが、「人を殺さない」ということよりも優先される。それは、その人の「願い」という言い方もできるから・・・『満願』というタイトルの1冊として、スッと頭に入って来ました。 上記のものが、真っ先に思いつく共通項かな?と思うのですが、それともう一つ、米澤先生節全開なのが、今回の本に収録された短編には、どの作品にも、地方土着の伝承というか、民族誌学的なモチーフが入っていました。これは・・・米澤先生の癖・・・かな;他の作品でもとにかく出まくって来るので、この『満願』だけではないのですが、ただ、今回の作りの短編集では、その作り方がどれだけ物語に影響を与えるか・・・浮き彫りになっていたと思います。基本的に、地域に・・・特に地方の田舎ですが、そういった場所で、倫理に反する思考回路をする際に、土着民話が、それを後押ししてるんです。また、後からその物事を他者が「納得」する為にも使われます。既存ストーリーや、そのものの持つ概念は、人が理解や納得をする時に使われる・・・というか、コレ自体がツールですね。分かってはいたのですが、特に今回の短編集が、「当然こうだろう」という常識をなぎ倒す思考回路に、ついて行かせてしまう・・・そういう作品ばかりだったため、なるほどなぁ・・・と。正直、神話にしても伝承にしても、特に今日までうっすら残っている物語というのは、これまで、何かしらで使い道のあった話ばかりでしょうから。多分・・・現実の出来事を投影しやすいというか。超好きです。こういうの。 下記、1作1作についてちょっとずつ感想。↓●夜警とある交番の若い巡査が命を落とした。数日が経ち、上司はこうつぶやく。「あいつは所詮、警官には向かない男だったよ。」すごくお気に入りの1話です。なんとも小説~~な出だし。全編通しての1人称も立っていましたし、キャラクターの人物像もしっくりきました。それと、アクションシーン・・・派手なシーンがクライマックスに描写されてすごくドキドキしました。●死人宿疾走した元恋人の居場所を知り、いてもたってもいられず、山奥の旅館まで来たビジネスマン。しかしそこは、自殺志願者が後を絶たない「死人宿」だった。今短編集の中では、わりと浮いていたお話だな~と思います。ただ、最後の方の「あたり前」の概念の辺りは、なるほど、この短編集にあってもおかしくないな・・・と思いました。●柘榴私は美人だった。しかし、競争の末手にした旦那は働かなかった。二人の娘が居るから頑張れるが、彼女たちの為にも、そろそろ離婚しなければならない。そう決断した。いちばん悪意っちゃ悪意のある作品だったかな、と思います。儚い羊~と似た作りの作品でした。動機が、生まれ持ったモノに起因している(だろう)ので、そこはやりきれなさ(っていうか、ちょっと納得できなさ)の残る話でした。●万灯商社に入社し、海外勤務も10年を超えた。天然ガス資源を目指し、バングラデシュに派遣されたのは2年前。しかしそこで、開発の妨げとなる存在と対峙する。今短編集の中では、一番ボリュームのある話でした。そのボリュームを裏切らない内容の作品だと思います。仕事人間の主観で、ず~っと物語が語られますが、全部・・・ついていけます。ただ一つ。この主人公が、少しでも「自分を大事にできる思考回路」をもっていれば。そう感じさせる要素も、エピソードにきちんと織り込まれていました。ものの見事に「殺人」につき合わされたのは初めて(かな?)でした;;ラスト・・・それか!!という「裁き」も、「異国の地」という舞台や地方民話がすごく活きてて、素晴らしかったです。おもしろかった。●関守伊豆半島の桂谷峠。ここで近年、奇妙なほど交通事故死が起きているらしい。うさんくさい都市伝説の記事をでっちあげるため、一人のライターがその峠を訪れた。なんとも米澤先生~!な1話でした。筋書き自体は(米澤先生にしては)わりと分かり易い話でしたが、ですが・・・です。最後に一気に明かされる動機は、その「人」の印象に寸分たがわず入ってくるものでした。特に・・・「旦那さんへの思い」が鮮やかに焼きついたのには驚きました。●満願こちらの作品に関しては、以前につらつら~と書いたことがあるので省きます。ただ、コンパクトなのにものすごい内容のあるお話で、最後にざぁああ!!っと出てくる鮮やかな人物像、そしてそれに、自分(主観)は感謝するしかないという状況、この辺りのやるせなさ&してやられた感は、ラストにふさわしいお話だと思います。 いやいや・・・うん。やっぱり米澤穂信先生の作品は、満足します!!!5月には、米澤先生がセレクトした海外短編小説集?が出るようで。また、発売日は分かりませんが、今年中にもう1冊出るのかな?発売ラッシュ、嬉しいです!!さてさて。これを活力に、明日から・・・はぁ・・・明日からの連勤、頑張らねば。by姉