暁のヨナ・「高華国」の特徴についてーその4・血の制約の補強、形骸化
暁のヨナ・「高華国」の特徴についてーその4その3の続きです。■「高華国」とは?ーその6・「血の制約」を補強する役割の存在前述してきたように、高華国というのは、想定している体制と、実質の権力図が合致していない国である、と考えられます。そもそも想定されている体制は、建国神話内においても、「血の制約」という、人外の反則技を土台に成り立っているものでした。特徴4で見たように、この「血」は、建国神話内で初代四龍たちが、人の手に余るものと判断し、早々に政治権力の外へ出しています。そこから約2,000年近く、この国は「血の制約」なしに、運営されて来ていることになります。これを可能にしていたのが、まず第一に、特徴その1でも書いた「地理的特徴」が挙げられます。例え政権を巡る内乱が起こったり、一時的に部族の分裂・併合が起ころうとも、「この国は5つの個々に強靭な要素を必要とする」という前提は変わらないため、自然とこの形に再び収まり、それを踏襲していったと考えられます。ただ上記前提とは別に、かなり意識的に、この体制を維持させるための機能も存在しています。それが、建国神話の後に誕生した、神官職と、王の部族の将軍職である、と私は捉えています。神官職は、初代黄龍・ゼノが、緋龍王亡き後、他の三龍が城を離れる段階で、王職を継いだ緋龍王の子供たちを心配し、設定した役職です。成り立ち自体から、「血の制約」部分を補完するために存在する役職であったことが見て取れます。神官職は、人々に天の存在を示し、建国神話を語ることで、国民…もっとはっきり言うと、他部族の将軍たちに、王職に服従することの正当性を訴える存在であったと考えられます。また、もう一つ。建国神話内での血の制約を補間する役割として、王の部族の将軍職があると思っています。王の部族の将軍は、建国神話内ではその存在を確認できません。この役職は、国家の象徴的な存在として王族間より選出する王職を、武力面で補うために、後から誕生した役職であると私は考えています。特徴3にあるように、高華国は、人々の価値観の中で「武力」の地位が非常に高い国です。また、各部族が自由に選出できる他部族の将軍職は、四龍を踏襲しているという成り立ちの経緯もあり、生粋の武人を据える傾向が強く、彼らの「武力」ベクトルの志向性は、一般民衆よりも更に強いと考えられます。この、王職と他部族の将軍職のアンバランスな部分を、王職寄りの武力面で補強する役割が、「王の部族の将軍職」だと考えられます。この役職は、部族長を兼ね、五部族会議の議決権を有する他部族の将軍職に比べ、政治的な権力が与えられている描写はありません。(軍事面ではどうか分かりませんが。)非常に純粋に、武で他部族を威嚇し、また有事の際には、王の意向を武力的面で具現化するための総司令塔です。 ここまで、高華国について思いつく特徴を列記してきました。魔法的な要素も登場し、かなりなオリジナル設定と、独特な価値観満載の国家であることが見て取れたかと思います。とにかく説明に骨の折れる…複雑に入り組んだ設定群なのですが、この辺を冷静に認識しておかないと、マジでこの作品は読解不可能だと思っています。マジで。この土壌の上で、数十に及ぶ主要主体がそれぞれ一生懸命、自分勝手に生きているのが、「暁のヨナ」という作品だと思っています。まだまだ、ここから派生していろいろと語りたいことはありますが、今回は最後にあと1点だけ。■「高華国」とは?ーその7・形骸化上述してきたような高華国の特徴について、実際の作中の登場人物たちは、皆、それを理解できてますでしょうか?高華国が、どのような成立過程・変遷を経て、現状の体制があるのか。自身の置かれた役職について、何を大元に受け継がれて来たものなのか、それぞれの役目やその存在意義を、理解できてますか?だいたい、理解出来てない状態じゃないですか?本編を読んでいると、「お前、何のために自分の役職があるのか分かってる?」と言いたくなる行動言動が各キャラクターたちの間に散見されます。また、体制と権力図の不一致から派生しているものだと思いますが、責任の所在についても、相当めちゃくちゃなことになってるように感じます。特徴5で観たように、5つの各部族が独自に内政を行っている現状において、各部族内の治安や、構成員たちの生活に関して責任を負うべきは、どう考えても各部族長です。空の部族以外…例えば火の部族において、構成員たちが貧困の不平不満を王職にぶつけることは、妥当ではないでしょう。権限についての細かい設定が新たに提示されれば、そうとも言い切れなくなるかもしれませんが、少なくとも30巻まで読んで来た限りでは、王職に、他部族内の運営体制に無理やり干渉して行ける、実を伴った権限があるようには見えません。「四方に、個々に強靭な部族を配す」という高華国の想定する強国像の為には、むしろそこの過度な干渉はやってはいけないことだとも思います。建国より約2000年…体制や役職の大元の意義伝承が薄まり、形と価値観だけが暴走する・・・ゼノさんの話を聞く限り、国家体制の大元を読み解くことが出来る建国神話自体は神官職の存在もあってか、かなり正確に伝承されてきているようですが、それも、「本当にあったことかどうか疑わしい」…と人々が思っている状態です。仕方ないことではあるのですが、こういうのを、「形骸化」って言うんですよ。長々と…4記事にも渡って書き散らしてきました。私が勝手に想像で補完しているところがかなりありますので、特に細かい部分は、今後作中で明かされる情報でどんどんズレてくるかと思います。ただ、とにかくこういう観点で読むと、「暁のヨナ」はものすっっっごく面白いです。「こんなところに注目して、暁のヨナを楽しんでる人が居るんだ~」くらいに受け取っていただければ…と思います。今後の本編の展開が、超楽しみです!by姉