映画感想『8 1/2(はっかにぶんのいち)』
おはようございます。映画感想『8 1/2(はっかにぶんのいち)』(フェデリコ・フェリーニ監督作品・1963年)43歳の前衛映画監督・グイドは、温泉地で肝臓の療養をしつつ、次回作の構想を練っていた。しかし、思考は行き詰まり、撮影は延期。プロデューサー陣のあおりが激しさを増していく中、彼の、現実と描き出したい理想とが混同して行く…。W不倫中の愛人、出番を求める女優、女友達、母親、友人の若く聡明な不倫相手の女子大学生と、そして、妻。幼い日から今に至るまで、彼の眼に映った「女性像」が目まぐるしく入り乱れる。謎の巨大セット・高くそびえる「発射台」で、彼は何を解き放つのか…。*以下、映画のラストシーンのネタばれまで含んだ感想です。未鑑賞の方はお気をつけください*去年の12月、フェリーニ監督の別映画である「道」の、草なぎ剛主演版舞台を観劇したのですが、その際の事前予習として、この「8 1/2」を鑑賞しました。とにかく、「フェデリコ・フェリーニ監督」と聞いても、全くなんのことやらさっぱりだったので。フェリーニ作品で、最初に鑑賞したのが、この「8 1/2」で、良かった…というか。衝撃的でした。一発で受け手の「理解」に叩きつけて来る、あまりに格が違う「天才」感…。wikiには、「魔術師」って書いてあるな。そうか、魔術か。なんっっっじゃこのイカれたエゴイスティックムービーは!…が、素直な感想です。この映画に関して、私が見た限りではこういう↓解説はなかったのですが…ただ、この作品は明らかに…最初、グイド監督が撮ろうとしてたような、『「監督自身の中の女性にまつわるイメージ像」をすべて盛り込み、最後に解き放つ映画』を、撮ろうとして、まとまらなくて、大混乱の末、終いに『女性像についての映画を撮ろうとして、まとまらなくて、最後「まとまらなかったー!」って全部放り投げる映画監督の話』になったんですよね。こんなもん観せられても…困りますよ…受け手として。困るんだけど…めっちゃくちゃ面白かった!!何故伝わる!!こんな、「フェリーニ監督の個人的な価値観の混乱」が!!何故って言うか、「ちゃんと映像になってるから」以外にないんですが。画面上に目まぐるしく登場して来る多種多様な女性像の描かれ方…皆魅力的なんですが、最終的に何を大事にしたくて、なんで混乱してるか…フェリーニ監督の価値観がちゃんと落ちて来るんですよ。それが怖い。この作品を観て、いろんな方がいろんな感想を抱くと思いますが、私が真っ先に感じたのは、これ↓でした。「だから結局、あなたは奥さんを大事にしたいんでしょ!?」グイド監督の妻・ルイザは、パッと見「知的・聡明」を体現したような女性です。ただ、グイドにチラつく他の女性たちの影に業を煮やし、夫婦関係は破綻寸前の状態。フェリーニ監督の奥さんが、映画『道』等で主演を務められた女優のジュリエッタ・マシーナさんとのことで。非常に聡明な方だったんだろうなぁ…と思うと、この映画、この辺りに詰まっている概念や感情が現実の投影であることがなんとなく覗えます。このグイドさん(って言うか、フェリーニ監督)ですが、基本的に女好きです。少年期はカトリック系の禁欲教育を受けていた(?)ようで、その時期の抑圧されていた反動というか、コンプレックスのような感情があります。若い女性が好きです。でも、老いも含めて女性だと思ってます。娼婦のような、官能的で頭の良くない女性も好きです。金銭的・精神的貧しさを象徴する性商売も、自らが抱く魅力的な女性像からは切り離せません。この映画を鑑賞した妹の見解が面白かったのですが、妹いわく、「フェリーニ監督の女性像を含めた『価値観』には、画家のグスタフ・クリムトに近いものを感じる」と。知的でアカデミックなものが、誰よりも大好きで、老いても揺るがない「知性・聡明さ」のような精神的な美しさに、一番の憧れと理想を持ち、それを大事にしたい人。ただ、「…とはいえ、そういう風にばっかり生きられない人間の怠惰でどうしようもない部分」も、魅力的だと思うし、愛している人。…なるほど、面白いなぁ、と思って聴きました。この感性は、「女性像」に対してだけでなく、「フェリーニのローマ」で描かれた「ローマ像」にも同様のことを感じました。そりゃ、全部詰め込んで形にしようと思ったら、価値観が喧嘩するわ。「8 1/2」の作中で、グイド監督が思考の旅の果てに、自身の魅力的だと思う女性たちを一同に集めた「ハーレム」にたどり着きます。そこには、夫のハーレムを許容し、またその運営の裏方としてかいがいしく尽力する、「理想的な奥さん」が登場します。…が、すべてが理想的な世界のはずなのに、そこに居る「理想的な奥さん」が、幸せそうじゃないし、「理想的」じゃないんですよ。当たり前なんですけどね。だから、この映画は「破たん」なんだと思います。クライマックス…映画の試写で耐えきれなくなった奥さんに別れを告げられ、若く聡明なクラウディアに、自分の理想の片鱗を探すも見つからない…。「もうダメだ」という状況で、夢か現実か分からない「記者会見」の場に担ぎ上げられ、逃げ場を失ったグイドが取った行動とは…!!?「人生は祭りだ。共に生きよう。」という印象的な一文に繋がるまでの静寂と、グイドの独白。そしてその先の、あまりに衝撃的で独創的なラストシーンに呆気にとられます。なんなんだこれは…!なんでいきなり今までの登場人物たち大集合の上、手を繋いで輪を作って、皆でラインダンスなんだ…!いや、分かる…!いろいろ、言いたいことも、たどり着いた境地も、示唆したいこともなんとなく分かるんだが、何故こんなものが映像になるんだ…!!ニーノ・ロータさんの楽し気なのに、心を不安定にさせる、素晴らし過ぎる楽曲が鳴り響く中、映画は終幕を迎えます。♪8 1/2テーマソング私ごときの説明では、この映画の凄さと衝撃は全く伝わらないと思いますので、興味のある方は、是非一度ご鑑賞を!個人的には、生まれてこれまで観て来た洋画作品の中で、いちばん衝撃的な作品でした。…まぁ、そもそも洋画をほとんど観ない人間なんですけどね;他の作品でもこの作り方を真似されちゃ、たまったもんじゃありませんが…これは天才にしか許されない作り方だ…とにかくこれはっ…面白かった!本当に!!フェリーニ監督作品は、他にもいくつかDVD等を買い集め始めているところです。全作鑑賞制覇したいな!気長に行きます。by姉