映画感想『ミッドナイトスワン』
公開2日目に鑑賞していましたが、なかなか感想を書く時間がありませんでした。1カ月くらい経っちゃいましたが、簡単に。映画感想『ミッドナイトスワン』(監督・脚本:内田英治、主演:草彅剛 2020年)新宿・ショークラブで働きながら、女性として生きるトランスジェンダーの凪沙。彼女のもとに、ネグレクト気味だった親戚の少女・一果が預けられることになった。不愛想で無口な一果のことを、最初は邪険に扱っていた凪沙だが、一果がバレエを習い始め、徐々に交流が増えていく。みるみるとバレエの才能を発揮させていく一果。凪沙は、一果の可能性をなんとか伸ばそうと考え始め・・・。925秒映画予告→こちら。*以下、現在公開中の映画作品のネタバレあり感想です。ご注意ください。*製作は「CULEN」一社。エグゼクティブプロデューサーは「飯島三智」。昨年、「半世界」「凪待ち」「台風家族」という、CULEN所属の3タレントそれぞれの単独主演映画が公開され、私はそれを勝手に「飯島三部作」と呼んでいましたが、「ミッドナイトスワン」はその時の製作委員会方式よりも、更に完全に自主(自社)製作での映画作品なのかな?と思います。結果を見る限り、昨年公開された3作品とは、話題になり方も、興行収入的にも格段に上回っているようです。興行収入は1カ月弱で5億円を突破したようで、コアなSMAPファンという一定層だけでは到底稼ぐことの出来ない次元の動員・収入なのだと思います。SNS等での口コミを意識したプロモーション展開、Youtubeでの本編15分に渡る長編予告の公開等が奏功している様子。素晴らしいと思います。作品自体に対して、私の感想を端的に言うと、「私の好みな作りの作品じゃない」です。どちらかと言うと、私は「脚本・構成」好きな人間の為、そういった観点で観たときに、正直なところ粗が目立ちますし、「私の好きな方向性」を大事にしようとした作りではないな、と感じました。私の好きな方向性で言えば、断然、昨年公開の「半世界」「凪待ち」の2作品の方が好みです。また、本作に関しては、トランスジェンダーという題材や、作中の展開に関しても、かなり攻めたものでしたので、これは・・・相当「酷評を言いたくなる人」も出てくる作品だな、と。そんなことを考えながらの鑑賞になりました。ただ、個人的な好み云々・・・そんなことどうでも良くなるくらいの強烈な魅力のある作品でした。とにかく、主役の2人を中心に、登場キャラクターたち個々の存在感・パワーが凄いんです。「俳優さんをまじまじと鑑賞する」映画です。この点に関しては、鑑賞者に喰ってかかってくる、凄まじいパワーを感じました。個々に、心に残った点を列記します。●凪沙:草彅剛上映中、ずっと1人の女性だと思って鑑賞しました。私自身、性別は女で、強烈にそれに違和感を覚えたこともありませんが、ただ、強烈にそれを意識したこともありません。自身を「男」だと思ったことはありませんが、どちらかと言うと、感性的には「男っぽい」と言われることのが多いです。凪沙さんは、強烈に自身を「女性」だと認識している分、私より断然「女性」だなぁ、と思って鑑賞しました。一果ちゃんに対して大きくなっていく感情が、「母親」としての自覚もですが、あとは、「女性から女性へ向けた憧れ・憧れの投影」の感情の方が大きかったかもしれません。これが、きちんと伝わってきました。夜の公園で、一果ちゃんのバレエの振りを、たどたどしく真似るシーンが一番好きです。ただまぁ、このキャラクターを鑑賞したことで、LGBTについて私の捉え方が変わったとか、考えさせられた・・・という観点はありません。このキャラクターは、「自身は女性だ」とはっきり自覚し、それを生き方に織り込めていますので。ここまで、「自分」を確立させることが出来ていますので、私から見たら、否定や「可哀想」といった感情は全くなく、好きなように生きることが出来ている人、ただの他人・「凪沙さん」です。実際には、本人が感じるほど、周囲の人は気にしないと思います。もし、LGBTについて、日本の現状に問題提起をしたいという意図のある作品なのであれば、主人公は、「実際には『女性』なんだけど、それを表に出せず苦しんでいる人」の方がよっぽど説得力があると思うんですよ。本作は、基本的に、問題提起のための社会派映画ではなく、この「凪沙」という主人公を、女性として魅力的に見せるための映画作品です。俳優「草彅剛」の所属事務所が、単独で製作を行った、完全セルフプロモーションムービーです。このキャラクターがきちんと、魅力的な人物像として伝わってきた時点で、企画製作主体の目的は達成されています。●一果ちゃん:服部樹咲「バレエで大成していく娘」の説得力が必要という、ド級のしばりがある中で、よくぞこんな娘をバシッと見つけられたな!!という新人女優さんこの娘を一果ちゃんに配役出来たことが、本作が、「俳優さんを鑑賞する」という点で強烈に魅力的な作品に仕上がっている、一番の成功要因だと思います。本映画作品が、よく分からない芸能界のしがらみから逸脱した場所で、純粋に形作りたいものを作りに行けている作品だということも、この配役からよくよく感じ取ることが出来ます。手足が長く、スタイルの良い、本当にきれいな女の子なのですが、その割には顔立ち・表情に幼さがあり、「守ってあげなきゃ」という感情も想起させる・・・この一言でしか言い表せないのですが、「役柄にぴったり」です。少ない口数で、感情の機敏をバシバシ伝えて来てくれました。本映画作品は、トランスジェンダーとかLGBTというより、この「一果ちゃん」の魅力に、周囲の「女性たち」が魅せられ狂っていく話、と受け取った方が、頭への収まり方は良いかもしれません。その説得力が、存分にある娘でした。ラストシーン・・・海に入り、波に向かって足を進めて行くシーンの、強い表情がとても印象的でした。●りんちゃん:上野 鈴華一果ちゃんの同級生&バレエ教室の先輩。この娘の存在は、15分予告でも完全に隠されていましたので、本編を見て、一番インパクトのあるキャラクターだったな、と思います。この娘の描写は、ささやかな部分まで本当に切れてました。警察で、母親が迎えに来て、帰り際まで一果ちゃんに「ごめんね」って伝えてくるシーンがとても印象的でした。●音楽:渋谷慶一郎メインテーマ・♪Midnight Swan→こちら。劇伴は、ピアノのみで奏でられてます。劇中では、非常にテンプレ的な感じで使用されているのですが、この音楽なしでは、1シーン1シーンが、そのシーンではなくなるな・・・と感じます。焦燥感のある音の打ち付けが、キャラクター&鑑賞者の感情も一緒に打ち付けて来る感じで、とにかくもう・・・「妥当だなぁ」と。とにかく、パワーのある作品です。なかなか攻めた内容ですので、ハッピーになりたい気分で鑑賞する映画ではありませんが、「エンタメに喰ってかかってきて欲しい!!」という方は、まだまだ全国公開中ですので、是非!そして・・・飯島さん、最高!!攻めどころと訴求対象層への売り込み方、タレントイメージブランド形成のためのリミッターの外し方、それでもきちんと抑えるところは抑えてあるバランス感覚・・・最高です!!!本作のヒットは、確実に昨年の3作品の出来映えも効いてのことだ思います。「新しい地図・CULEN」ブランドとして、映画の製作姿勢が邦画鑑賞層に広まっている証拠だと。本当に、いちいちオモシロいんですよ。これまで「新しい地図」主体で繰り出して来た映画作品は、とりあえず全部鑑賞している・・・と思いますが、本当にハズレがありません。是非是非、今後もたくさん映画作品を繰り出してほしいです!by姉