少年漫画感想『LADY COOL - RENTAL BODYGUARD -』(許斐剛先生)
Twitterで知りましたが、本日は許斐剛先生のお誕生日だそうですね。昨年の7月に、映画『リョーマ!新生劇場版テニスの王子様』の本予告映像を見て衝撃を受け、漫画原作を爆速で漁り、9月の公開以降劇場に総計21回通いつめ、BD発売以降は、毎週末に必ず鑑賞、なんならミュージカルシーンは毎日鑑賞、というとんでもない中毒症状に私(&妹)が見舞われているのですが、そんな状態に陥ってから、もうすぐ1年が経過してしまうということですね!…怖いですね!少年漫画感想『LADY COOL - RENTAL BODYGUARD -』(許斐剛先生、全2巻、2013-14、ジャンプLIVE)人の心を先読みする能力に長け、向き合った相手とラジカセで会話をする女性…レンタルボディーガードの「COOL」。ボディーガード依頼をするため、喫茶店『JAM』を訪れたのは、「命を狙われている」と言う少年・鼓太郎で…。許斐先生の初連載作・『COOL - RENTAL BODYGUARD -』の主人公を、「闘う女性」に変換して展開されている作品です。こちらですが、ジャンプLIVEという、現在のアプリ・ジャンプ+の前身アプリ雑誌での配信作品だそうです。ジャンプLIVEですが、2013年の初期初期にジャンプが初めて立ち上げたアプリ雑誌とのことで、Wikiを見る限り、紙雑誌ではできない、アプリならではの面白味・企画(動画等?)を盛り込んだ、かなり挑戦的な内容になっており、このジャンプLIVE創刊号で、本作『LADY COOL』の1巻にあたる連載が行われたようです。こういった条件の中で、許斐先生の仕掛けたのが本作ということですね。『許斐メソッド』と紹介されていましたが、とても面白い企画だと思います。・全8回で、4日おきに十数ページの更新を行う。・各話のラストで、A・Bの二つの選択肢が提示され、読者が投票を行う。 ⇒1日で投票を締め切り、多い方の選択肢に沿って次の話が展開する。この企画自体の概要を読んで、真っ先に思ったことが、「許斐先生自身が、自身の最も得意とする『構成』部分を当て込んだ企画だな」でした。私は、許斐剛先生の漫画作品の魅力は…もちろん、キャラクターセンスですとか、いろいろあるのですが、一番の強みは何か、を挙げるとしたら「構成・演出」だと思っています。どんなところに居ても、そこから限られた時間・リソースの中で、実現可能な表出の形に向けて一気に、「構成」できる。その中で、魅せるべきインパクトを「演出」できる。だからこそ、「テニスの王子様」についても、連載当初は想定していなかった、集団アイドルとしての作品展開に、あれほどまでに柔軟で発展性を持った形で、どんどん広がる展開が出来たのだと思います。ですので、掲載から「今後の展開の選択肢のアンケート」を取り、4日ペースで漫画作品の更新をする、というのは、もちろん、出し手としては超高等級の挑戦的な企画なのだと思いますが、私的には、「うん、許斐先生だったら出来るだろうね」というのが素直な印象でした。*以下、本編のあらすじの完全なるネタバレを含む感想です。本作品は、絶対に漫画作品として鑑賞した方が面白いです。未読の方はご注意ください。*◆LADY COOL 1について(2013年8月~)元の「COOL」の「青年・女子高生」という設定を、「女性・少年」に置き換え、出だしの話筋自体は、かなり元作に近い形で展開していきます。ただ。本作については、LIVEがLIVEであるが故の恐ろしさが、後半で大爆発炎上を起こし、言い表すのであれば、構成作品としては「事故作品」とも言えるようなとんでもないところに突っ走っていってしまいます。これがまた…その事故り方が、あまりにもクリエイティブで超オモシロいんですよ。第3話で、殺人事件の容疑者として、許斐先生を模したキャラクターが登場します。<キャラクター詳細>・名前:漫画家 越前たけし・「ラブミュ」として人気を博す「ラブラブ王子様」の作者・女性ファンにキャーキャー言われている<キャラクター発展>・ラブプリ音楽プロデューサー松井氏と、暴露本の件でトラブルになり、彼を殺害・COOLたち主役主体に追い詰められ、鼓太郎くんを人質にして逃亡。・超早業で整形・外国人タケシ・クロフォードとして生まれ変わる・心も外国人になったのか、突如会話の中で英語を使い始める・捨て台詞が、ONE PIECEのゴールド・ロジャー級に名セリフ「俺は天才漫画家 越前たけし!!無限の輝き!無二の個性派貴様ごときに奪われる安い命ではないわ!!」はっきり言って、「LADY COOL1」については、許斐先生作品では初の試み・女性主役のCOOLや、作品としての構成云々の話はすっ飛び、ひたすら越前たけしの暴走と、彼に作品が乗っ取られていく様を楽しむものになります。◆LADY COOL 2について(2013年12月~)舞台は沖縄。「超人気アイドル」のボディーガード依頼を請け負ったCOOLだが、その対象は子豚で…。2回目の本作について、やり方は前回と全く同じです。ただ、1回目は当初やろうとしていたことが出来なかった(越前たけしに乗っ取られた)ので、そこをやり直す…「最初にやろうとしたことをやり切る」点に注力している印象です。こちらの作品は、企画に対しては大成功な仕上がりだと思います。・許斐先生の物語構成力・演出力がいかんなく発揮されている・シチュエーションが、陸地~海中・海上、昼~夜とバリエーションに富んでおり、 1冊の漫画作品として、読み応えがあり、満足感が高いそもそも、各話毎に設定される、読者に選択を委ねる「分岐」も、その選択肢自体、第1回目よりかなり恣意的なものになっています。その2つを提示されれば、おおよそどちらが選ばれるかは想像できたり、(たいてい刺激的な方)あるいは、どちらを選んでも大筋はそうも変えずに、進められるようなものです。読者に「選ばせてる」ようで、話筋自体は安定している印象です。これだけ、読み物としての面白さのある作品ですので、逆に、画面の「薄さ」が気になってしまうくらいです。このLADY COOLの画面は、基本、鉛筆画をラフなデジタルカラー処理したものです。アプリ配信である点を考え、カラーは維持しつつ、基本作画作業時間が3日間しかない点を考慮し、この形にしたということが1巻のコメントで記載されていました。この「LADY COOL2」については、先ほども言ったようにシチュエーションも多様で、「もっとしっかりした画面で読みたいな」と思いました。(1の時より、ずっと画面も安定しているのですが、この話筋を魅力的に読ませようと思ったら、このレベル感だと勿体ないな、ってニュアンスです。)◆LADY COOLの企画全般、メディア変遷について結局、この「LADY COOL」ですが、「ジャンプLIVE」自体がコンテンツ量で飽和状態となり、第3号の発行に至らず、「ジャンプ+」アプリ立ち上げへ向かったそうです。それに伴い…だと思いますが、「LADY COOL」も2巻までの発刊で続編は今のところありません。おそらくですが、この「LADY COOL」を出すまでの2013~2014年頭頃までは、許斐先生はテニプリ以外の、新規連載作品を世に出すことを画策されていたのではないかと思っています。この「LADY COOL」の企画終了後、だと思いますが、2014年の段階で「新テニスの王子様」の展開を大きく動かし、(リョーマくんの日本合宿離脱&アメリカ代表入り、世界大会編の開始)このタイミングで、新規作品(テニプリ以外の作品)の企画立ち上げは断念(見送り?)されている、と勝手に認識しています。「テニスの王子様」に絞った、というか。この「LADY COOL」と連動した「テニスの王子様」本編の動きに関しては、時代の変遷という点で観ても、とても面白いところだな、と思っています。そもそも、ジャンプがアプリ雑誌を発刊するという試みをしたことからも分かるように、個人向け携帯端末のスマホ・タブレット移行とともに、電子書籍化が大きく進んでいるのが、この頃、2013~14年頃のようです。要は、メディアの一大変革期ですね。更に掘り下げると、「テニスの王子様」に関しては、作品の年表を見る限り…多分なのですが、2015年初め頃に最後のDSソフトを発売した後、メディアミックスの一大スポンサーだったコナミが撤退していることが見受けられます。ゲーム文化については全然知識がないのですが、これも従来のパッケージ販売から、アプリゲーム…ソシャゲ?へのメディア転換という流れもあった上でのことなんじゃないかな、と想像しています。↑こういったメディア変遷の流れの中で、「テニスの王子様」がいったん、いち時代、2000年代から続いた、第一線でのメディア展開の形・スキームを終えた、というか。このタイミングで、ひとまず「LADY COOL」でアプリに漫画作品を掲載することも試験的にやってみた許斐先生が、新しいメディア…新しい、電子書籍や様々なアプリ文化に展開させていく作品として注力したくなったのは、「新しい企画作品」ではなくて、「テニスの王子様」であり、まだまだ満足いくまで描き切れていない、愛すべきキャラクターたちだったんじゃないかな、と思っています。◆越前たけしについてここまで「LADY COOL」について、メディア変遷がどうこうと、小難しく語って来ましたし、それはそれで大きな流れとして、当然あると思っています。また、そもそも漫画作品として非常に高度な試みで、レジェンド作家様の自己研磨の仕掛け方も、よくよく観察できます。素晴らしいと思います。…ただ、何が一番心に残ったかって…当然のごとく、越前たけし一択です。最初はそれこそ、こんなに暴走させるつもりも全然なかったと思うんですよ。それが、蓋を開けたらLIVE感の中で超暴走し出して…許斐先生ご自身が抱え込んでいたであろうフラストレーションをぶちまけて来ました。「LADY COOL 1」を読み終わった感想は、一言でした。許斐先生、完全に「ラブラブ王子様」の作者演るのに疲れてるじゃん。ファンに「幻滅」され、終いには、整形して別人になろうとしてまして…。これは、本当にご本人も描いてみて、びっくりしたんじゃないかと思うんです。「なんだコイツ」って。「越前」ってつけちゃったのもそれに拍車をかけた…というか、リョーマくんのフラストレーションも乗っかって来たのかな、と。いや、許斐先生は女性向けコンテンツの始祖みたいになってますけど、もともと「鉄人~世界一固い男~」とかでデビューされた方ですから。おそらく、ご本人が一番好きなのは、男らし~い、古風でベターなゲッテゲテの少年・青年王道作品なので。基本的に、気質もやろうとして仕掛けたことも、明らかに「女性向けコンテンツ」ではない作家様だと思っています。ただ、「SLAM DUNK」「ONE PIECE」という大人気王道少年漫画と比較される立ち位置で仕掛ける連載作品として、そことの差別化もあって、「越前リョーマ」「王子様」を前面に押し出したし、それが見事にはまって、大成功を収めた、というか。そこから更に、構成の鬼であり、ファンサービス精神の塊だったために、行った先でどんどん求められるものを形にしちゃうというか、できちゃって、気づいたら、立ってたのがココ、というか。(もともとの気質じゃない方がやってるアイドル展開だからこそ、「創造的」「分析的」「柔軟」で、毒々しくて面白いんだと思うんですけどね。)ただ、やっぱり「自身の気質を出せない」中での創作…それも、数年という期間ではない、十数年に渡る創作活動というのは、並大抵の精神力ではできませんし、どれほどセルフメンテナンスが優れた方であっても、どうしてもフラストレーションは蓄積すると思います。この「LADY COOL」を出して、なぜか「越前たけし」が暴走して、許斐先生も、改めてご自身(&リョーマ君)のフラストレーションが極限まで来ているのを自覚されたのかな、と思って読みました。こんな観点↑で読んでも、超絶面白い作品です。『LADY COOL - RENTAL BODYGUARD -』…2021年公開の映画『リョーマ!新生劇場版テニスの王子様』が出て来るに至るメディア変遷という大きな流れや、許斐先生自身の心情を想像することができる、非常に興味深い作品だと思います!興味のある、漫画好きの方は、是非!by姉