「匿名原稿」スティーヴン・グリーンリーフ著
「匿名原稿」スティーヴン・グリーンリーフ著黒原敏行=訳 ハヤカワ・ミステリ 1992年11月30日発行【中古】 匿名原稿 / スティーヴン グリーンリーフ, 黒原 敏行 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】■あらすじ見に覚えのない罪で刑務所入りした主人公が復習を誓い、出所後に自分を罠にかけた人物をつきとめようとする――弱小出版社の社長の机のうえに忽然とあらわれた原稿は、ベストセラー間違いなしの傑作だった。だが、原稿には肝心の結末が欠けており、著者の正体も不明だった。私立探偵ジョン・タナーは出版社の社長から、著者をさがしだして残りの原稿を手に入れてくれと依頼された。原稿に目をとおしてみると、たしかに圧倒的な迫力があった。もしかすると、これは著者の実体験をつづったノンフィクションではないのか。そう考えたタナーは、原稿の記述を手がかりに調査をはじめた。過去に実際起きた事件を描いたものならば、主人公をはめた犯人は、いったい誰なのか?そして、作者はどのような結末を考えているのか?出版界を舞台に、知性派探偵ジョン・タナ―が現実と虚構のはざまから真実を探り出す異色ハードボイルド!〈著者紹介〉1942年ワシントンDC生まれ。カリフォルニア大学卒。サンフランシスコの私立探偵ジョン・タナ―を主人公とする(多賀城図書館の青シールで続きが見えない(`・´)・・・・・好評を博している。ジョン・マーシャル・タナ―シリーズ7作目■感想スティーヴン・グリーンリーフ初小説。存在すら知らなかった。これが、久々に文章を堪能して読書を楽しませていただいた。文章も人物もストーリーも大変好みだった。ストーリー展開は、少しずつヒントが出てくる謎解きもので最高に面白かった。私立探偵タナ―と同じヒントを元に読者も一緒に謎解きをして行くのがワクワクした。謎の原稿の文章が各章の前に少しずつ書いてあり、その原稿の内容もとても面白い。謎の原稿を『ハムラビ法典を讃えて』にした題名も後半になってようやく理解できた。この小説は『ハムラビ法典を讃えて』という匿名原稿を巡る探偵の物語で、小さいヒントから少しずつ少しずつ真実に辿り着く話だ。主人公タナ―の一人称で書かれてあるので、時間軸も混乱せずに、状況や行動に共感できる。(理解力記憶力が落ちた読書好きにはありがたい)このタナ―さん、とても誠実で優しく慈悲深く愛情深くて辛辣で機知に富んでいて柔軟性がある。タナ―の優しい語り口調で、会話のようにさりげなく出版業界の闇や大国アメリカの貧富の差と人々の暮らしについて、教育問題についてしっかり書いてある。うっかり何年代の物語か書き留めていなかったけど、確か1980年代1990年頃の話だったかなぁ。携帯電話が出て来る前の話だった。だから情報集めは足で稼ぐ。それで目の前で少しずつ人物や事実が構築されて行く。タナ―は元弁護士なので法律にも詳しく破綻がないのでストレスなく読めた。各章の前に少しずつ載せてある『匿名原稿』の展開もミステリアスで興味津々だった。初めはその題名から、ハムラビ法典の研究書なのかなと思っていたが、知的で簡潔で意味深い文章は面白くてどんどん惹き込まれて行った。匿名原稿の作者が分かって少々引いたけどね。私は最後まで分からなかった。全部を踏まえても、文明社会の問題点について思わずにいられなかったので、力量ある一冊だと思う。真っ白いページに僅かなヒントが記されて、早く次のページをめくりたくなるような、そんなワクワク謎解きとタナーの心理・人物・環境の描写が美しい文章で描かれていて、読んでいてとても楽しかった。久々に堪能できる一冊に出会えて感謝!!――2019年9月7日頃読了――