『ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち』ダグ・ジョンストン著 感想メモ
『ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち』ダグ・ジョンストン著A DARK MATTER Doug Johnstone菅原美保=訳 小学館文庫 2023年4月11日カバー画 3rdeye/カバーデザイン 鈴木成一デザイン室ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち [ ダグ・ジョンストン ]■著者紹介 ダグ・ジョンストンスコットランド・アーブロース出身、エディンバラ在住。物理学とジャーナリズムの学位、核物理学博士号を持ち、ミュージシャンとしても活動。2006年に『Tombstoning』でデビュー。(ツームストーニング・非常{ひじょう}に高いところから海や川に飛び込むこと。 )これまで本作を含め三作がマッキルヴァニー賞(スコティッシュ・クライムブック・オブ・ザ・イヤー)の最終候補作に。本作は第四弾まで発表された人気シリーズの第1作。■訳者紹介 菅原美保広島県生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。訳書にアレックス・ノース『囁き男』など。別名義でビジネス関連書や児童書などの訳書もある。■イラストレーター情報1977年東京生まれ 16歳から25歳までアメリカへ留学。2000年 School of the Museum of Fine Arts - Boston 卒業帰国後、雑貨メーカーへ勤務した後、2005年からイラストレーターとして活動を開始。東京都在住。■【ダークマター】暗黒物質(あんこくぶっしつ、英: dark matter、ダークマター)は天文学的現象を説明するために考えだされた仮説上の物質。 “質量を持つ”、“物質とはほとんど相互作用せず、光学的に直接観測できない”、“銀河系内に遍く存在する”といった性質が想定される。■あらすじ エディンバラで操業百年、十年前からは探偵業も営むスケルフ葬儀社。亡くなった当主ジムを火葬した直後、妻ドロシーは夫の秘密を知ってしまい愕然とする。バツイチの娘ジェニーは解雇通告を受け、仕方なく 探偵業を引き継ぐことに。孫娘の大学生ハナは失踪した親友の捜索に乗り出す。三世代の悩める女たちはそれぞれの案件を解決しようと体当たりで突き進むが、次々と衝撃の事実が判明し……。 苦笑、失笑、毒もたっぷり、傷つきながら必死に生きる各世代の女のリアル満載。美しい古都を舞台に繰り広げられる、スコットランド発ブラックユーモア・ミステリー。■感想当主ジョンの火葬シーンから始まるスケルフ葬儀社の妻ドロシー(米フロリダ出身)娘のジェニー・孫娘の大学生ハナがそれぞれの動議から事件を追って探偵を始める話。話の流れはスムーズで、個性的な面々が沢山出て来るので巻頭のエディンバラの地図と登場人物を何度も見返し見返し時々ネットでエディンバラの公園墓地や美しい建物などを見ながら、それでも最近の私にしてはさくさく読めて面白かった。テンポよく進むが、(時々あっけに取られて呆然・憤然とするが)ドロシー・ジェニー・ハナの章に分かれていて読みやすかった。彼女らは色々色々考えるんだけど、私が昔、カウンセラーさんや色んな研修や集まりで考えたり感じたりする訓練を受けた時みたいに、匂いや色や触覚や感覚や音などから発展させて行く自分の内部の変化や思いなどを感じ取る時みたいに一緒に色々と感じ取ったり考えたりして楽しかった。つまり、その時々に彼女達は自分と向き合って答えや結論を出しつつ、惑いながら頑張って行く。大学生ハナは物理が専攻なので、視点が一々最先端の物理を介してのもので、この数年は物理を調べて色々と思っていた私には実にぴったりな表現や視点で楽しかった。この作家の特異性(物理学とジャーナリズムの学位、核物理学博士号を持ち、ミュージシャンとしても活動)が随所に出ていて、文章表現も分かりやすくて読みやすかった。これは訳者さんがすごく上手いんだと思う。英語文をイギリスに見合った内容に、日本人が理解できる日本語に翻訳するのが、ものすごく上手なんだと思う。しかも堅実温厚ながらも行動力のあるそれでいて自分を見失わないドロシーらしさ、諦めや挫折で言い訳が多い中、突然行動派になる流されやすいジェシーや、猪突猛進で純粋な若者ハナが生き生きと描かれている。稼業が葬儀社と言うのはドラマでは見る事があるけれど、小説としては初めて読むと思う。(最近の私の記憶力は赤の直前の黄色状態なので 確信は持てないが)死者を大切に扱いつつも女性3人が稼業として色んな作業をこなす様が、彼女らの心の矛盾や行動の理由ともなり、面白い背景だった。ただね、ジェニーがさ~流されるのがさ~己の弱い所を見るようで不快だった。まあ、結末のために必要ではあったのだけど、何の容疑もない男子学生の急所を掴んで脅すとか、自分でも驚いていたけれども、こんな事をジェニーにさせた作家を少し不快に思っている。 そして成り行きで始めた探偵業は、正直探偵らしからぬ滅茶苦茶が多くて「探偵には秘密保持があるんじゃないか?!」「探偵は自分が探偵だと言ったら探偵になっちゃうのか?!」「そんな感情的になって、探偵と言えるのか?!」が並んでいて、ちょっと。私の中ではちょっと物議をかもしました。え、探偵だって自分で言ったらまかり通るのか?!ストーリー上面白可笑しくするために必要なんだろうけど、なんかなあ~今まで一般人として生きて来た人の抵抗感とか苦しみとかがあるんじゃないのかなって思ってしまう。面白かったけどね。翻訳者と編集者が最高だったろうと思うけどね。翻訳者がとても良かったので訳者「あとがき」が楽しみだったのにあとがきが無くて、「解説」三浦天紗子(ライター・ブックカウンセラー)だったのが残念だった。元気いっぱいエネルギッシュに書いてあるんだけど、本文を読む前に読んではいけないヤツだった。思い入れが感じられないので、訳者じゃない人に「解説」を書いてもらうのは編集者の意気込みを感じるものの、私は訳者さんの素直な感想を知りたかったなぁ。どんな点に苦労したとか、配慮したとか、誰のここが好きだったとか、ビックリしたとか、訳者さんと共有したかったなぁ。2024年10月10日頃読了――ここまでが最近書いた感想――――ここからは読了直後に書いた感想――■直後の感想庭先での当主ジョンの火葬シーン(これがもうとんでもない)から始まるスケルフ葬儀社の妻ドロシー(70歳フロリダ出身)離婚を引きずる娘ジェニー(40代ジャーナリスト)孫ハナ(大学生レズビアン)が、それぞれの動機から事件を追って探偵を始める話。話の流れはスムーズで、いつも冷静なドロシーの心の中、流されがちなジェニー、無垢で真っ直ぐなハナの葛藤と苦しみを読みながら、苦楽を共にしているような、とても読みやすい本だった。これは作家は勿論、翻訳者も編集者も素晴らしい人に違いないと思う。(最近Youtubeの『ゆる言語学ラジオ』をよく見ていて、 2人のMCのうちの一人が出版社の編集者を生業としているため、 出版に際して編集者がどのように関わるのかを知る機会が増えた。 それでこの頃ようやく、 良い本は編集者の尽力による事を知った次第です。)まず、表紙の絵が良くて、闘いを挑むべく立っている3人の女性と手前の猫、緑多めの色と黒の色彩と構図に惹かれた。これは読んでみると、実に本書の内容をよく表していると感心した。読み終わってから眺めると、全てこの通り!この表紙に惹かれた人はこの話も気に入るはず!と思った。この功績はイラストレーターと編集者にあると勝手に思っている。私はこ10年くらいは最近の物理に接して、宇宙の繋がりや、人や生き物全ての繋がりについて思いを馳せて来たので、物理を学んで来たハナの思考の時に飛び交う 物理的視点の考察や発想が凄く楽しくて、友を得たり!と思った。(笑)真っ直ぐな性格も好きだ。でもハナの母親のジェニーについては自分の悪い所「流されやすい」が感じられる度にイライラしてしまった。やだこの人、またズルズルだよ。止めなよぉぉ。お酒に酔って勢いでやっちまうなんてさぁ。探偵って秘守義務があるんじゃないの?ダメじゃん、依頼主の秘密をバラしたら!!この人は探偵じゃなくて、ただの調査人だ!!とムカついたのだった。スケルフ葬儀社の女主人になったドロシーはコツコツと情報を集め、相談すべき事は相談し、黙って動く時は黙っている芯の強い女性で、この人はとても好きだ。私は本当はかくありたい。(笑)そして読後に表紙をよく見てみると、3人の女性の性格が立ち位置・立ち方によく表されている。イラストレーター凄い。カバー画3rdeye カバーデザイン鈴木成一デザイン室となっている。素晴らしい仕事だと思っている。3人の無鉄砲さにはちょっと呆れた。祖父たるジョンが亡くなったばかりで抑制が取れないにしても、余りあるジェニーの情緒不安定。ハナが行方不明のメルの部屋を滅茶苦茶に引っ掻き回して証拠を探すシーンは、その後の大事な物とそうでない物の区別が付かなくなるだろうと思った。どうせ死んだんだからと片付けない所は何か嫌な気持ちになった。亡くなった人の部屋でも尊厳を保ちたいと思うのは日本人だからなのかな。でもハナの一本気な所は気持ちが良い。3人3様の事情を抱え、どんどん行動して行くので面白かった。心理描写も豊かで、分かり易かった。エディンバラの歴史的な風景の写真をネットで観ながら、格調高くて荘厳な建物が多いイギリスで、このポップなお話と言うのが面白かった。話の進め方が上手だった。このスケルフ社の話はシリーズ物になり、イギリスではその後3冊ほど出版されているらしいが、日本ではさてどうなるのか。この後の本書の評判によるかな。最近の私にしては早く読めた。――2024年10月10日頃読了――