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テーマ:読書メモ(89)
カテゴリ:本
「目くらましの道」上 ヘニング・マンケル著
柳沢由実子=訳 創元推理文庫 【中古】 目くらましの道(下) 創元推理文庫/ヘニングマンケル【著】,柳沢由実子【訳】 【中古】afb? ■あらすじ 夏の休暇を楽しみに待つヴァランダー警部。 そんな平和な夏の始まりは、一本の電話でくつがえされた。 呼ばれて行った先の菜の花畑で、少女が焼身自殺。 目の前で少女が燃えるのを見たショックに追い打ちをかけるように、事件発生の通報が入った。 殺されたのは元法務大臣。 背を斧で割られ、頭皮の一部を髪の毛ごと剥ぎ取られていた。 CWA賞受賞作、スウェーデン警察小説の金字塔。 ■感想 スウェーデン国営放送で作られた 「スウェーデン警察クルト・ヴァランダー」シリーズの ドラマを初めて見たのは随分前の事で、 だぶだぶした大柄のおじさんがバタバタと日常を苦悩し、 煩悩まみれの中でついでに事件を追う感じがあって、 あまり良い印象はなかった。 その後、英国とスウェーデンによって制作され、 BBCで放送された「刑事ヴァランダー」シリーズは、 主演のケネス・ブラナーも映像も脚本も他の役者も素晴らしかった。 一見冴えない中年刑事の冴え渡る観察力、 推理力、共感力、良心の呵責と苦悩と孤独にまみれているのに 表現が下手なので家族との亀裂にあえいでいる。 それでも深い愛情と正義感で、 昼となく夜となく殺人犯を追い詰めるために 自分を削ってすり減らしながら生きている様は、 サスペンスとしても人間としても、 大変魅了されて一番好きなドラマになった。 先月、あちこち調べていたら ヘニング・マンケルが2015年に亡くなった事を知り、 もうこれ以上は あの繊細で人間を突き詰めたドラマを観る事ができないのだと がっかりした。 そして、そう言えばヘニング・マンケルの小説は 全く読んでいなかった事に思い至って、 図書館から借りて来たのが「目くらましの道」上だった。 最近の私の常で、集中力が全くないため 始めの方を読むのに4日くらいかかった。 その後、本題に突入すると 今までドラマで見て来た、 地べたをはいずるようにコツコツ捜査し、 頑固な父親と別れた妻・娘との関係に苦悩するヴァランダーの 心の内が詳しく分かって面白かった。 そうか、この時こんな事を考えていたのか。 あの時はこんな風に感じていたのか。 ドラマでは分からなかった事情が理解出来た。 事実を突き詰めて、少しずつ解明して行くのも、 同僚達との小まめな情報交換や読み筋の交換など、 丁寧に書いてあって、 状況を理解するのにとても良かった。 ドラマでは省いてある所があったり、 細かい説明もされないので、 見る側があれとこれを繋いだり接ぎ合わせたりするのだが、 それでは足りなくて、 録画したものを何度も見直したりしたものだった。 小説にはヴァランダーの心情が書いてあるので、 ドラマ映像を思い出しながら理解を深める事が出来た。 ただ、ドラマの菜の花畑のシーンの印象が強くて その後の記憶がない。 親族とのやり取りは覚えているのに。 原作を読んでみて、 益々BBCで放送された「刑事ヴァランダー」は 原作に近くて世界観が見事に表されていると思った。 上巻は本題に入ると止まらなくなった。 人間の哀しみと恐怖と嘆きと怒りについて 読んでいる感じ。 読み手は、途中で犯人が分かるのだが、 私は推理が好きなので、 普通は犯人が分かると面白みが薄れて 止むを得ず惰性で読み切ったりする。 でも本作は犯人の心情を知ろうと思ったり、 その人までヴァランダー達がどうやって辿り着くのか、 逆に面白くて止まらなくなった。 繊細で細かい点も、 ヴァランダーのドジで子供っぽい所も、 仲間の反応や大きな流れも面白い。 ヘニング・マンケルは非常に優れた作家だと思い 益々残念だと思った。 ―――――下へ続く――――― お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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