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February 25, 2021
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テーマ:読書メモ(89)
カテゴリ:
「喪失」モー・ヘイダ―著
原題「GONE」
北野寿美枝=訳 早川書房
2012年12月15日初版発行
2013年2月25日再版発行


【中古】喪失 / モー・ヘイダー

■あらすじ■

当初は単純な窃盗と思われたカージャック事件。
だが強奪された車の後部座席に乗っていたはずの少女は
いっこうに発見されない。
捜査の指揮を執るキャフェリー警部の胸中に
不安の雲が湧きだしたとき、
今回とよく似た手口の事件が
過去にも発生していたことが判明した。
犯人の狙いは車ではなく、
少女だったのか!

事件の様相は一変し、
捜査に総力が注がれる。
だが姿なき犯人は、焦燥にかられる警察に、
そして被害者の家族に、
次々と卑劣きわまる挑発を・・・・・・

屈指の実力派が、
MWA賞(アメリカ探偵作家クラブによるエドガー賞とも言われる)
最優秀長編賞の栄冠を射止めた力作


■モー・ヘイダ―■
英国エセックス生まれ。
15歳で学校を辞め、バー・メイド、
警備員、英語教師などの職業を経験。
東京でホステスをしていたこともある。
2000年に『死を啼く鳥』で作家デビュー。
バース在住。


■感想■ちょいネタバレ含む

ジャック・キャフェリーを主人公にした
シリーズ作品の第五作。
シリーズ開始当初はロンドン警視庁の
圏内重要犯罪操作隊に所属していたが、
2作目では数年後に
エイボン・アンド・サマセット警察の
重大犯罪捜査隊に移ってからの話になり、
そこで過去を背負って歩き続けるウォーキングマンや
潜水捜索隊隊長のフリー巡査部長と出会う。

そして本作(翻訳された物としては3冊目だが、
シリーズ物では5作目に当たる)では、
フリーのことでキャフェリーが
怒りで一杯になって不安定になっている。
フリーはフリーで秘密を抱えている。
どちらも危険をはらんでの思いや行動が
しょっぱなからハラハラし通しだった。

しかも被害者家族の心情を
懇切丁寧に描いてあるため、
一緒になって苦しみ悲しむ。
情景描写も丁寧で、
まるで映像が見えて来そうだ。

登場人物一人一人への設定・肉付け・
感情描写・風景描写が隅々まで表現されていて
息苦しいほどだった。

事件の深刻さが増すにつれて
左右に揺れっぱなしの天秤のように振り回される。
最後は息を飲む思いで疾走した感があり、
娘を誘拐された母親達の
不安・恐怖・怒り・失望・悲しみ・
希望を味わい、泣いてしまった。

鋭い観察力と感性を持つゆえに
部下のブロディにもハラハラした。
フリーの部下とのやり取りも
関係性が見えて良かった。

追い込まれて行くキャフェリーと
ウォーキングマンとの関係が、
別の軸になってすごくありがたかった。

半分くらいで犯人が分かったつもりだったので、
この分厚さの真ん中で
こんなにみっちり書かれてあり、
この後はどうなるんだろう?
と疑問に思いながら読んだ。

すると後半は別の意味で濃くて、
ここからが始まりだったのか!
と思うほどだった。
色々騙された。

事件の全貌が分かるのはラストで、
真犯人が分かっても
別のおぞましさで一杯になった。

狭い部屋で卓球をしているみたいに
思いがけない所にはね返り、
ぶつかって来て、
一瞬たりと油断できない。
そんな一冊だった。

疲れたーー。
ラストに救われたー。
読み応えはたっぷりで、
くどいくらいに濃厚かつ綿密。
デリケートで強力。

これまで読んできた推理もので、
ラストで油断し過ぎて
ぬるく感じてしまうものが多い中、
これは最後までしっかり描いてあり
読後感が充実していた。 

モー・ヘイダ―のキャフェリー警部ものを
1の『死を啼く鳥』から読もうかな。


*エイボン州は1994年まで存在したイングランドの州。
 現在のブリストル州、サウス・グロスターシャー、
 グロスターシャー、ノース・サマセット、
 バース・アンド・ノースサマセット。
 今までは、コッツウォルズなんて
 石造りの家々や、風情ある風景しか知らない所だった。
 エイボン&サマセットは
 イングランドの南西部地域。
 ロンドンの南西部、ウェールズの北側。
 イギリスでも明るい地方と思われる。
 最長で200キロ弱くらいかな。
 結構広域なんだな。

 対比として『ヴェラ~信念の女警部』の舞台は
 イングランド北東部ノーサンバーランド。
 エディンバラの南東に位置している。
 ヴェラを見なければ石垣に囲まれた
 牧歌的な牧草地帯と思い込んでいた。
 イギリスの真ん中あたりで
 スコットランドに近い。
 最長100キロくらいかな。


――2020年9月22日頃読了――





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Last updated  March 3, 2021 10:56:49 PM
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