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テーマ:ミステリ小説(44)
カテゴリ:本
『暗闇に抱かれて』カレン・ローズ著
You Can't Hide 藤田佳澄=訳 早川書房 2008年2月25日発行 【中古】 暗闇に抱かれて / カレン・ローズ, 藤田 佳澄 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】 ■あらすじ 精神科医テスの患者が、次々と謎の自殺を遂げた。 捜査にあたる刑事のエイダンは、何者かの手で 自殺に追いこまれたと断定する。 だが、いったい何の目的で? テスはエイダンに協力し、犯人像のプロファイリングに取り組む。 暗闇に姿を隠した犯人を必死に追いかけるうちに、 いつしか惹かれ合っていくふたり。 やがて判明した犯人の狙いは、テス自身だった……… RITA賞受賞の注目作家による濃密な ロマンティック・サスペンス ■著者紹介 ワシントンDC近郊で生まれ育つ。 メリーランド大学で化学工学を専攻。 オハイオ州シンシナティでメーカーに勤務していたころ、 ロマンス小説を書きはじめる。 2003年にDon't Tellで作家デビュー。 第3作の『誰かに見られている』でRITA賞の 2005年最優秀ロマンティック・サスペンス賞に輝き、 続く第4作『復讐の瞳』も翌年の最終候補となった。 本書は第5作。 これまでに長篇7作を発表し、いずれもベストセラーに。 現在はフロリダ州で、夫と2人の娘とともに暮らしている。 ■感想 ネタバレ満載なので注意してね! 原題の『You Can't Hide』は「あなたは隠れることができない」 という意味で、これは読みながらテスの事と思い、 読み終わってからは犯人の事でもあると思った。 本文が631ページの分厚い本で、 エイダンとテスが反発し合う理由や、 惹かれ合って行く様子は丁寧に書いてあって良かったんだけど、 RITA賞を知らなかったので、途中からラブシーンが入り 濃厚なシーン描写があったりでげんなりした。 なんか賞を取っているので、 読み応えがあるんだろうと思っちゃったんだよね。 調べなかったのよ、RIAT賞って何かを。 (リタ賞またはRITA賞は、 ロマンスのジャンルのフィクション作品に贈られる アメリカ合衆国の文学賞。 主催はアメリカ・ロマンス作家協会。 傑出したロマンスの長編及び中編小説を表彰し、 その素晴らしさを奨励するために創設された。 賞の名は、RWAの初代会長リタ・クレイ・エストラーダにちなむ。) ロマンス小説の奨励賞だったんだねぇ。 後半ではイケメン長身で誠実で賢いエイダンが、 美人で賢くて迫害にも屈せず頑張るテスを 同僚の前で「ハニー」と呼んだりしてげんなりした。 ロマンティック・サスペンスを甘く見ていたよね。 ロマンティック・サスペンスが好きな人には最高だと思う。 後半のこれでもかこれでもかのおぞましい追い込みが、 ラブシーンやうきうき心が描写されるとふらついて 悲惨な状況が中途半端なものになってしまった。 後半はサスペンス要素が曖昧に感じてどうでも良い感じになり、 読み終わるのに根気が要った。 最初から状況は怖かったんだけどね。 あらゆる所に仕込まれた監視カメラや盗聴器。 沢山の物証が見つかるのに何の痕跡も見つからない! テスの患者達が操られている。 そこに加担した人達もどんどん殺され行く。 そもそもの発端の人物を入れたら13人殺された。 誰がそれほどテスを憎んでいるのか? 何があったというのか? 不安と恐怖に翻弄されているのに、 13人も殺されて行くのにいちゃいちゃするので、 緊張感が抜けて行く。 追い詰められた心理状態での行為ならもっと動物的であろうに 2人は恋心を楽しんでいる。 本当か? 訳が分からない状況で周囲の人がどんどん殺されたり 襲われたりしているのに、 「ハニー」とか言っている場合か? アメリカの「ハニー」状態は日本人には理解できないのか? ちゃんとサスペンスに集中しろよと言いたい。 人間の生き様をちゃんと書き込めよと言いたい。 そうよ、後半は人物が描かれていない気がする。 状況だけが書かれている気がする。 だから犯人の犯行の理由が腑に落ちない。 あまりの犯行ゆえに、動機が薄い気がする。 注!ここからは本当にネタバレです。 犯人の数々のおぞましい犯行理由の原因が 統合失調症って本当か? 私の叔母は長い間統合失調症だけど、 何かを隠す事が出来るほど自分も知能も制御出来ない。 薬の副作用で細かい事が出来ないし、 想像力が欠如している。 発症すぐの頃は、常軌を逸していても おとなしい人だったからか攻撃性は滅多に現われなかった。 でも計画性や持続性は無かった。 統合失調症の人がこんな事をするものか? 厚生労働省によれば 「統合失調症には、 健康なときにはなかった状態が表れる陽性症状と、 健康なときにあったものが失われる陰性症状があります。 陽性症状の典型は、幻覚と妄想です」 とある。 ほかの病院の説明には《陽性症状》として ●妄想 「テレビで自分のことが話題になっている」 「ずっと監視されている」など、 実際にはないことを強く確信する。 ●幻覚 周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたり(幻聴)、 ないはずのものが見えたり(幻視)して、 それを現実的な感覚として知覚する。 ●思考障害 思考が混乱し、考え方に一貫性がなくなる。 会話に脈絡がなくなり、何を話しているのかわからなくなることもある。 《陰性症状》として ●感情の平板化(感情鈍麻) 喜怒哀楽の表現が乏しくなり、 他者の感情表現に共感することも少なくなる。 ●思考の貧困 会話で比喩などの抽象的な言い回しが使えなかったり、 理解できなかったりする。 ●意欲の欠如 自発的に何かを行おうとする意欲がなくなってしまう。 また、いったん始めた行動を続けるのが難しくなる。 自閉(社会的引きこもり) 自分の世界に閉じこもり、他者とのコミュニケーションをとらなくなる。 《認知機能障害》として ●記憶力の低下 物事を覚えるのに時間がかかるようになる。 ●注意・集中力の低下 目の前の仕事や勉強に集中したり、 考えをまとめたりすることができなくなる。 ●判断力の低下 物事に優先順位をつけてやるべきことを判断したり、 計画を立てたりすることができなくなる。 とある。 これらの具体的な症状は、私の伯母に殆ど当てはまる。 普段はおとなしいけれど、何かがきっかけで 妄想の反応が出る時が年に一度くらいあったくらい。 40年前は独り言と、 同じ所をぐるぐる歩き廻るのがひどかった。 現在、陽性症状は投薬によって穏やかになっている。 陰性症状と認知機能障害は60年近く続いている。 世間話や感性の話は全くできない。 用事の話が出来るだけだ。 だから、長年の訪問看護の方々とのやり取りで身に付いたらしい 「ご苦労様」「気を付けて」を初めて言われた時は ものすごく感動した。 伯母のためのあれこれを頑張って良かったと思うくらいに。 犯罪白書によれば、精神障害者による犯罪は 1位が放火2位が殺人となっている。 統合失調症の人が起こした殺人事件を見てみると、 妄想型が追い込まれて家族を殺したり、 突発的に殺したりするものの、 自分の犯行を隠しながら 複数の事件を計画的・緻密に行うなど見当たらない。 腑に落ちないよねえ。 この小説の犯人は 反社会性パーソナリティ障害がぴったりだと思うんだけど。 MSDマニュアルによれば 『反社会性パーソナリティ障害患者は, 個人的利益や快楽のために違法行為、欺瞞行為、搾取的行為、 無謀な行為を行い、良心の呵責を感じない: 患者は以下のことを行うことがある: 自分の行動を正当化または合理化する (例、敗者は負けるべくして負けたと考える、 自分自身の利益を追及する) 被害者を馬鹿だったまたは無力だったと責める 自分の行動が他者に及ぼす搾取的で有害な影響に関心を示さない 反社会性パーソナリティ障害について、 米国における12カ月間の推定有病率 (旧DSM基準に基づく)は約 0.2~3.3%である。 反社会性パーソナリティ障害は男性の方が女性より多く(6:1)、 強い遺伝要素がある。 反社会性パーソナリティ障害患者は、 器物の破壊、他者への嫌がらせ、 窃盗により他者や法律の軽視を示すことがある。 彼らは自分の欲しいもの(例、金、権力、セックス)を手に入れるために、 人を欺き、利用し、言いくるめ、操作することがある。 患者は偽名を使うことがある。 行動に対する後悔の念がない。 反社会性パーソナリティ障害患者は自分が傷つけた相手や (例、傷つけられて当然である) 世の中のあり方(例、不公平である) を責めることで自分の行動を合理化することがある。 彼らは人のいいなりになるまいとし、 いかなる犠牲を払っても 自分にとって最善と考えることをしようとする。 このような患者は他者に対する共感に欠け、他者の感情、権利、 および苦しみを馬鹿にしたり、それらに無関心であったりする。 反社会性パーソナリティ障害患者は自己評価が高い傾向があり、 非常に独断的、自信家、または傲慢なことがある。 望むものを手に入れるためには、 感じよく、能弁で、流暢に話すことがある。』 とある。 私は高校で2人この手の女子に出会って ひどい目に合った。 このマニュアルの症状にぴったり。 どちらも育成環境に問題があり、 特に一人は気の毒な環境で育った。 多分、小さい頃から虐待を受けて 生きるために身に着けた武装状態だったんだと思う。 でも嘘に罪悪感がないから態度が一貫している。 明るくて陽気でおしゃべり上手だった。 だからみんな騙されている事に気付いてもいなかった。 私は超お人よしの天然、幼いメルヘン女子だったので、 油断して私には裏の顔もいっぱい見せてた。 でも私の話は誰も信じなかった。 テスは精神科医なのに、何も気付かないはずはないと思う。 十代から一緒に暮らしていたのなら小さな棘が沢山あって、 精神科医になるために勉強したり、 現場での差し迫った経験とかで 少しずつ疑問が積み上げられて行くのじゃないかと思う。 エイミーの異常性に気付かない訳がないと思う。 気付かない理由として、 テスは自分に関係する事はとても天然と言う設定だけど いやいや、それにしてもである。 しかも事件後にはすぐにさらりと立ち直っている。 それまではトラウマで エレベータ―に乗れないくらいだったのに。 その辺のテスの状態は丁寧に書いてあった。 だけど家族で親友だったエイミーがやった事のひどさを 全く感じさせない終わり方で、 仕事を辞めて、何年か隠れるくらいに苦しむだろうに と思うくらいに悲惨な目に合ったのに、 事件後の駆け足状態も納得行かないので、 50点くらいかな。 ロマンス部分を差し引いてもプロットに無理があった気がする。 途中で誰かが何かに気付くだろうし、 いくら頭が良くて狡猾だとしても、 人を沢山利用している分だけほころびも多いはずだ。 それに何も13人も殺す事はなかろうに。 話を盛り上げるために状況を追いこんだ、 って事なんだろうけど……。 13人も殺すほどの説得力がなかった。 読者の視点をエイミーに集めないためか、 エイミーの話があまりなかった。 だから父親殺しをするほどの理由が見つからない。 生まれつきの脳機能障害だったのか、 お産で脳機能を痛めたのか、遺伝性なのか。 父親の虐待があったのか。 何も書かれていない。 私が読み取れなかったのかな? すごく時間をかけて読んだのに ラストの甘さにガッカリだったので、 カレン・ローズの名前を憶えておいて うっかり読まないように気を付けよう。 私には合わなかったので。 ー2022年5月22日頃読了ー お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 22, 2023 02:48:43 PM
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