凍えたココロ

夕方目覚め、ぼんやりとした意識の中、

熱いミルクティーを作って胃の腑を

温める。ゆっくりと紫煙を燻らせて、

電話診察の時間まで暫し気が抜けた

状態で過ごしていた。

冷たい水で顔を何度も洗い、

頭をしゃきっとさせて

漸く診察の中で話す事を

頭の中でまとめていく。

色々とロジカルな文章は浮かべど、

私は心の中身をそのまま表したいので

一旦頭の中を真っ白にして、

この数日に起こった事、考えた事を

想起した。そして電話を掛けた。







私が今一番気になっている事は、

中々浮腫みが取れない事であった。

それについて話すと、栄養失調で

浮腫んでいる上に、低蛋白血症であるとも

言われた。栄養失調で浮腫むなんて

知らなかった。そこで私はお豆腐を

食べる事を勧められた。

固形物は食べられない事を申し出ると、

「おぼろ豆腐なら大丈夫なんじゃない？」

と仰るので、今日早速過食を１回減らして

お豆腐だけを食べてみようと想う。

浮腫んでいると、例え脂肪が増えて太ったのでは

無いと解っていても、顔やお腹がぽってりしているのが

許せないのである。腕や足が異様に細いだけに

その不釣合いが心地悪い。







閑話休題。

診察の中で、『白か黒か』という

話題が出た。私はどちらかにはっきりしていないと

何だかもどかしく苛々してしまうが、

これは余りにも単純過ぎて、思慮が浅い考え

かも知れないと感じ始めた。

主治医が仰るには、



「白でも黒でもグレーでも揺れがあるという

　事を把握するのが大切。天気でも、晴れていたって

　雨が降っていたって、曇っていたって、状況は

　様々。特にグレーである曇りには陽が差す事もあれば

　雨が降る事もあり、移ろっている。

　その移ろいを実感するのが大切なんだよ。」



と言う事であった。

人のこころは、一定の所で留まっている事はない。

いつも揺れていて、移ろい易いものである。

こころは単純なものではない。

だから、それを体感しながら物事を捉えるのが

大切になるのであろう。







私が子どもの頃の母との関係は、

いつも土砂降りの雨が降っていて、

その中で偶に陽が差すといった

状態であった。

びくびくと震える寒い土砂降りの雨の中が

躾と称した打擲であり、

陽が差す時は、偶に優しく温かく

接してくれる状態であった。

今の母との関係は、

『晴れ時々雨』

という感じであろうと想う。

その中にいつも『不安』が

付き纏っている。







私は子どもの頃から、親に甘えられなかった。

父は仕事上帰るのが遅かったので、

ウィークデイは余り話す事は無かったし、

休日、父は寝転がったままで何もせず、話し掛けても

鬱陶しそうな顔であっちへ行けと言われた。

ある程度大きくなってからは父が余りにも

幼稚な人間である事が分かったので、

近付くのは止めたが、それでも子どもとして

父親という父性に触れてみたかった。

でもそれは叶わなかった。

残念ではあるが、仕方の無かった事なのであろう。







主治医の言葉はとても温かく、胸に沁みた。

こころの問題だけでなく、身体が異様に浮腫んでいる事も心配して

下さり、原因を突き止め、対処法も教えて頂けた。

長年私はまともな食事など全くしていないので、

栄養失調になるのも当たり前であるし、

低蛋白血症を起こすのも至極当然なのであろう。

でも、幾ら柔らかい豆腐であっても、

それが過食を始めるきっかけになるのが怖い。

そしていつもと違う事を始めると言う覚悟が要る。

食べ物の消化を許すという事･･･私に出来るであろうか。

いきなり成功するという甘い夢は見ないようにして、

でも努力は怠らないようにしたい。

最近は唐辛子の辛さ以外の、刺激のある調味料は

ある程度受け容れられるようになったので、

今日購入した小さなお豆腐を

山葵と少量のお醤油でちびちびと消化に向けて

頑張って食べてみたいと想っている。

でも失敗したとて落ち込まないように気を付けたい。