今年もあとひと月
『 初恋 ~ 憧れの人 ~ 』 小さい頃、テレビのブラウン管を通してその人を見た時、キラキラしていて素敵な人だと思った。父の仕事の関係で1度だけあったその人は、優しくてまるで王子様の様だった。幼い子供ながらに思った。“いつかあの人にもう一度逢いたい。そして、あの人の傍に居られたらなんて・・・”その夢がまさか現実になるとは夢にも思っていなかった。 ー 10年後「おい、立花。コーヒー!」あのキラキラした憧れの人、未だ、人気絶頂の俳優、水無蓮(みずなしれん)23歳。暴君だ。「はい、ただいま。」駆けて行き、彼にコーヒーを渡す。「ったく、お前は使えねぇな。」「すみません・・・」彼に怒られるのが日常になっている私、立花雪葉。高校生でありながら、叔父が社長を務める王手プロダクションのマネジャーとして働いている。数年前、両親を亡くした私を引き取ってもらった私は叔父の元でタレントさんなどの世話をしていた。学校には特待生として通っている。あまり、お金を掛けて貰えず、タダ同然の無償でマネジャー業をやっている。逆らえば、路頭に迷ってしまう。私は、憧れの人、水無蓮さんのマネジャーに着いた時は夢の様だと思っていた。 ―しかし、ふたを開けてみれば「おい、立花。これとこれ帰ってこい。あと明日は、里奈と逢うから9時から予定開けろ。」無茶な要求をされ、それに答えなくてはいけない小間使いなのだ。彼は女遊びも激しく、共演者の女性とのスキャンダルも絶えないので、日々胃が痛い。彼に近付く女の人達は私を見下していることを知っている。きっと誰よりも優位に立っているんだと思う。眼鏡に、二つに分けて結んだ髪、まさに地味な女子高生。そんな私を哀れに思うスタッフさんなんかもいるのだ。こうして、今日も彼の要求をのみ、スケジュール調整を行う。「雪葉。明日は俺に付けんだよな?」私は、彼の他にもう一人担当している人がいる。彼はデビューした手でありながら人気絶頂中のアイドル音無奏(おとなしかなで)18歳。彼も水無さんと変わらず、暴君でありながら、少し子供っぽい面もあり、彼に対抗意識を燃やしている。「ええっと、すみません。明日は水無さんに同行するように言われていまして・・・」「えっ、またかよ!あんなおっさんより俺に付けよ!俺の方が後回しっておかしくね?」「そう言われましても・・・」彼は私を壁際まで追い込み、片手を壁に付けて文句を言うので、逃げ場のない私はオロオロと困ってしまう。そこにもう一人の担当マネージャーがやって来た。「奏。いい加減にしろ!お前は俺とMOONと一緒に行動だ。そう言っただろ。」「なんであいつらと!あいつらと一緒にすんなよ。」と悪態吐く。MOONとはアイドルグループであり、音無さんと同じくらいの男達がいるグループで人気のあるアイドルグループである。そのアイドルと仕事が良く被っているのだ。そこにMOONの一人がやって来た。「まるで子供だな。雪葉。お前、この後はどうすんだ?」「柳さん。お疲れ様です。この後は、水無さんの家に行って、ご飯を食べて貰い、事務所に戻ります。」「おいおい、大丈夫か?お前、テスト前でヤバいんじゃないのか?」心配そうに話す柳さん。「そうなんですけど、学業よりこっちを優先しないと私、どこにも行く所がないので・・・」勉強しなくてはいけないのだが、叔父にとってはどうでもいいことだ。「だけど、このままじゃ倒れるぞ!」そう話していると水無さんが現れた。「おい立花。帰るぞ。」「蓮。お前は一人で帰れ。立花が学生なのをもっと考慮しろ。立花、事務所には私が行くからお前はそのまま直帰しろ」「でも、瀬野さんが社長に・・・」「良いから。昨日も寝てないんだろ。優一。立花を送って行ってくれ。」「分かった瀬野さん。奏も帰るぞ。」とんとん拍子に話が進んだ。舌打ちをする音無さん。不機嫌そうに睨む水無さんだが、マネジャーの瀬野さんに反撃できない。瀬野さんは若くて優秀で、私のことを気に掛けてくれる数少ない大人だ。兄の様に慕っている。柳さんはMOONのリーダーで、責任感が強くて、優しい大学生で度々、勉強を見て貰っている。MOONのメンバーは皆やさしい。