カテゴリ:ディズニー
S崎さんのことを思い出す度に、私は今でも敬愛と畏怖の念に襲われます。
とにかくスゴイ人でした。 皆が恐れた理由は、すぐに解りました。 S崎さんは、マガイモノが大嫌いです。 知識と教養、経験の裏打ちを持たない仕事は全否定。 今でこそ、目をかけてくれてたんだと解りますが、最初は、まるで私だけを標的にしてるように思えたんです。 とにかくおっかなかった・・・。 こっちは一所懸命に新商品のプレゼンテーションしてるってーのに、 「バカか?おまえ。」 これでお終い。 なんだよそれぇぇぇぇぇぇ! バカとまで言われると怒りだって込み上げて来ます。 必死に抵抗します。 しかし・・・・この人が知らないことなんて世の中に一つもないんじゃないかと思うくらい、何でも知ってる。 日本史、世界史、美術、経済・・・私が得意とする分野だって全然歯が立ちません。 哲学史・宗教史なんていう、かなりオタッキーな話題で抵抗を試みましたが、あっけなくヒネられる赤子の手。 それでいて本人の専門は数学・物理学だって言うんですから、呆れてしまいます。 私がいかに無知な人間かを思いっきり、叩き込まれるように自覚させられました。 え?ディズニーグッズをつくるのにそんな知識が要るのかって? ごもっともです。私も、それが要ると解るまでに時間がかかりました。 どんな場面で要るのかというと、あらゆる場面で要るんです。 例えば、モロヘイヤの健康食品をつくる人間は、良い野菜をつくればいいってもんじゃことはお解りいただけると思います。 (もちろん、良い野菜をつくるためにだってものすごい知識と教養と努力と経験の積重ねが必要なんですが。) 人さまの健康を考えるわけですから、栄養学・薬学・生理学・心理学・免疫学・・・学問的なことはもちろん、法律だって経済だって料理だって知ってなきゃいけない。 いやいや、それじゃあ足りないんですが、まだ全てを身につけてるわけではない中、挙げるのが辛くなってきました(笑) だからディズニーグッズだって、ひとさまに夢を提供しようとするなら、膨大な勉強が要るんです。 (詳しいとこは、企業秘密なので書けません) とにかく、S崎さんに「良し。」と言ってもらわないことには新商品が出せない。 もう、必死で勉強するようになりました。 本を読み漁り、新聞を3誌購読し、新しい発見をするために街へ出かけたり旅行に行ったり。 何度も何度も叩きのめされて、プライドズタズタにされて、チクショーコノヤローと何度も泣きました。 でも、そのうち解ってきたんです。 「バカか?おまえ。」 そう言って立ち去るあの背中は、いつも「ここまで這い上がって来い」と語っていたんだってことが。 知識や教養なんてものは、持っていてあたりまえ。 それがあって初めてクリエイティヴな仕事ができるんだと、S崎さんはそう教えてくれました。 私がある新商品のプレゼンをしたときの、忘れられない会話です。 S崎さん:「君はこれを、何を思って創ったんだね?」 私:「ジャングルクルーズに乗られるゲスト(お客さま)に、探検家の気分を味わってもらいたくて創りました。」 S:「そうか。では、これを5千円の商品にしなさい。」 私:「え?これはパーク内でかぶる帽子で・・・5千円では売れないと思いますが・・・」 S:「そうじゃない。5千円払う価値があるものに創り直すんだよ。」 私:「お言葉ですが・・・それではゲストが洒落で買うことができません。これはパークのテーマ性で売るものなので・・・」 S:「君はまだ解ってないんだなあ・・・・私たちの仕事は何だ?」 私:「・・・ゲストに喜んでいただける商品をつくること・・・だと・・・思います・・・」 S:「吉岡くん(←私)。私たちの仕事っていうのは、TDLのあらゆる仕事の中で、唯一、ゲストが自宅に帰ったあとの思い出に関われる仕事なんだよ?」 私:「?????????」 S:「家に帰ってから包装を開く。グッズを手にする、お菓子を食べる。飾ったり使ったり味わったりしながら、TDLは楽しかったね、また行きたいよね。そう思っていただくのが私たちの仕事なんだ。」 私:「!!!!!!!!!」 S:「君の商品は、全く逆だ。確かにパークでは嬉しいかも知れないが、帰ってから何でこんなの買ったんだろう??・・と思われたって仕方のないものだ。私たちはディズニーキャストなんだ。おみやげもの屋じゃない。私たちが売ってるのは商品じゃない。夢なんだ!」 参りました。降参です。自分のアホさ加減が身に染みました。 ディズニーを愛し、誰よりもお客さまのことを考えていたつもりが・・・・全然なってませんでした。 そして退職前、最後に企画した入魂の商品を売り出して、私はようやく単なるアイデアマンから脱皮できたような気がしました。 一緒にパークに行ってくれて、新商品が喜んで買っていただけてる光景を2人で見つめ・・・ こんなに皺があったのかと思うほど顔面をクシャクシャにして、私の頭をクシャクシャに撫でてくれたS崎さんの、あの時の笑顔が忘れられません。 私がこれからやって行くのは、健康食品産業と呼ばれる仕事です。 職業は農家。売るモノは野菜。だけど、お客さまに買っていただくのは食品ではなくて健康!・・・そうじゃなきゃ価値がないと思ってるんです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/01/25 01:05:43 PM
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