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今月号の「自由と正義」※1に、こんな事例が懲戒理由として載っていました。
ちなみにこの事件,報道が流れていたのでそんな感じで懲戒されたと言うのは知ってはいたのですが,自由と正義に出るまでは控えていたものです。 ①弁護士は,夫Cに不貞行為をされた妻Aからの依頼を受けた。 ②弁護士は,不貞をされた側の夫Dからの依頼を受けた。 要は、「探偵と組んで現場を押さえ、即座に相手に対して交渉を迫り,その場で相手が責任を認める内容の合意書に署名押印させる」という手法が問題視されたものでした。 この件が懲戒されたことが報道される以前、テレビで「探偵と弁護士で組み,探偵が尻尾を掴んだ不法行為者を路上で捕まえて同行させて事務所に連れて行き、言い訳をする不法行為者を証拠を使って黙らせ,和解契約書に署名捺印させる」という番組をやっていました。 懲戒事例と非常によく似た交渉のやり口であると言えます。 テレビ演出的には、悪者がズバズバと成敗されるようでかっこいいのかもしれませんが私の感想は 「もしこの番組が本当だとすれば、まともな弁護士なら絶対やらん行為をやってるなぁ…というか,最悪懲戒食らってもおかしくないのでは? というものでした。 今回の懲戒で,どうやら私の感想は間違っていなかったようだ,という確信を強めました。 もしまたこの番組がまた同じような手口での加害者との交渉を堂々と放送しているようであれば,弁護士会に通報してもいいように思います。(といっても,今私の自宅にテレビはないのですが…) こういった直談判で即座に回答を迫る手法は,相手方から考える機会さえも奪うものです。 弁護士として依頼者の言い分を信じ、場合によっては希望に沿って活動すること自体は当然のことですし,相手に有利な情報をあえて与えてやる必要があるとも言えないのですが,だからと言って,相手に弁護士その他に相談する余地も,考える時間さえも与えず,即座に決断を迫ることまでが許されるものではありません。 こちらの方が多人数なので、精神的な圧迫もされかねません。というか,交渉と見せかけて多人数で威圧して要求をのませると言うのは、893の常套手段でさえあります。こんな交渉をしたら、相手方から「強迫による意思表示で無効だ」「脅迫によって財物を交付させる恐喝や謝罪を強要する強要だ」と主張され,契約の有効性を争われるリスクが出てくるでしょう。 私が相手方の代理人弁護士ならほぼ間違いなくそう主張しますし,不当な事件処理に応じることは依頼者からの希望があった場合であろうと懲戒理由ですし,払った金を返せとか,恐怖心に対しての慰謝料を払えと逆に訴えられる場合もあるでしょう。 場合によっては立ち会った依頼者までが「その場に立ち会って相手の自由な意思を封じた」ということで、強要や恐喝の共犯とされてしまったり,そこまでいかなくとも捜査の対象にされるリスクさえもあるのです。 依頼者も交えて直談判で相手に非を認めさせる,というのは依頼者としては相手に非を目の前で認めさせることができ、そういう希望をお持ちの依頼者(金銭より相手からの謝罪が欲しいと言う方は多い)にはとても満足できる結果に終わるので、ぜひやってほしいという気になるのは分からないではありません。 しかしながら,相手方個人への直談判が許されるのは相手方から事前にOKが出ているときなどに限るべきであり,安易な直談判は危険すぎる行為です。 なので,私は直談判は理由を示した上で基本的にお断りします。 お断りしてもしつこく要求される,という体験は今までありませんでしたが,理由を示して断ってもしつこく要求する場合,不当な手法による弁護活動を強要された,ということで,着手金も返さず辞任という強硬手段を採用するかもしれません。 本当にそれくらいのことなのです。 また,仮に相手方との関係で弁護士による直談判が問題がないとしても、実は直談判はあまり得策ではないことが多いのです。 例えば,相手の腕をつかんで止める,なんてことになると暴行罪や逮捕罪、帰りたいと言った人を帰さないなどをすれば監禁罪になります。現行犯逮捕ならば私人でもできますが,交渉を始める前に速やかに警察に引き渡す必要がありますし,大体弁護士がこうやって直談判を考えるような件で現行犯などまず考えられないでしょう。 また,公衆の面前で行えば名誉毀損罪の可能性が出てきますし,かといって事務所などに連れ込むと「強迫」と評価されるリスクが上がります。 そして,そういった刑罰法規に触れないようにやろうとすると,「説得なんか応じる気はない、意地でも逃げる」という加害者に対しては何もできません。 それどころか逃げた加害者に「バレた!即逃げよう,財産隠そう,証拠を消そう,口裏合わせしよう」という動機を与え,いざ裁判という段になって証拠不十分に陥って勝てる裁判すら勝てなくする,あるいは勝っても財産回収に繋がらないと言う最悪の形での自爆につながるリスクさえもあるのです。 何で警察が犯罪者を一生懸命「逮捕」しようとするかとすれば、そういった隠避行為をさせないためですが、弁護士に逮捕権がない以上はそうなるリスクを覚悟するしかないのです。 弁護士が直談判をして不埒な相手方を黙らせる,というのはドラマやテレビ番組で見る分にはカッコいいかもしれませんが、多くの弁護士は直談判は基本的にやらないし,下手な直談判をした結果弁護士が懲戒されたり、直談判を求めた依頼者にまで責任追及が及ぶ可能性があると言うことをご理解いただきたいと思います。 余談。 今回懲戒になった事例やテレビでは弁護士が探偵と組んでそういった交渉をやっていましたが、探偵から紹介を受けて弁護士が事件を引き受けたり,ましてやそのために依頼料の一部を支払ったりしている場合,非弁提携(弁護士法27条違反)の疑いがかなり強く、その場合は即弁護士辞めなさいと言われても文句は言えません。 弁護士に依頼したところ「証拠が不十分だなあ…」というときに依頼者サイドで探偵を頼み,事実上協力する(裁判するためにどんな情報を探ってほしいか提示するなど)だけならば問題はないので、探偵と協力することはダメなことと即断はできません。 その辺はテレビ番組の件では触れられず、懲戒事例でもその点は懲戒理由とはなっていませんでしたので,この点についてはこの記事では信じることにしますが、探偵と組んでいる弁護士を見た場合には,そういう点も意識してほしいなと思います。 ※1・・・日弁連版の官報。 弁護士はもちろん,司法修習生や裁判所・検察にも配っていますし一般購読も可能です。 弁護士は懲戒処分を受けると必ずこの雑誌に載せられます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年12月19日 23時00分07秒
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